開催日:2006年3月11日 会場:東京・プリズムホール
朝早くから集まった参加者たちの熱気に包まれる中、まずは、ドリームゲート本部・松谷卓也代表が口火を切った。スペシャルゲストとして株式会社ネクシィーズの近藤社長も駆けつけ、会場はさらに熱気が高まる。
「起業はすでにブームではなくなりました。新しい時代の変化です。そして、ここにいらっしゃるみなさんは、時代の変化の最先端にいるのです」。「強
いものが勝つのではありません。変化するものが勝ち残る時代です。この時代の変化を感じて、最高の機会としてください」。その松谷のメッセージで、2日間
の熱い挑戦者たちの祭が始まった――。
基調講演「我々が、この国を変える」
シンクタンク・ソフィアバンク 代表 田坂広志氏
「今、ここにいる起業家や起業をめざす挑戦者たちは、素晴らしい登山に向かわれようとしている」と田坂氏はいう。そして、起業という登山を
成功させるために必要なもののひとつとして、「ビジョン」を挙げる。「ビジョンにはふたつの意味があります。ひとつは、これから登る山の頂の姿、つまり、
何を目指すのかということ。もうひとつは、これから何がおこるのか、言うならば、時代の変化をつかんでいるかどうか。今、世の中は大きな変革を迎えようと
しています。この変革の風をつかめば、それはあなたにとって追い風となるでしょう。しかし、その存在に気付かなければ、逆風ともなるということです」。
そして、この追い風となる変革は、3つある。
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日々新聞で目にする「情報革命」、この革命によって、マーケットの性質は確実に変化を遂げてきている。マルチメディア革命、ネット革命、ブロードバ ンド革命、IT革命、ユビキタス革命と、この革命自身も進化を続けているが、その本質はというと、いまだ「情報通信の革命」であるとの誤解をされることが 多い。「“革命”の本来的な意味は、“権力の移行”。つまり、情報革命とは、情報の主導権が、情報弱者へとシフトしていくことを意味しているのです。経営 者から社員へ、企業から消費者へ、そして官庁から生活者へ。A・トフラーがいうところの“パワーシフト”に気付いているかどうかが成功への別れ道となるで しょう」
そして、「情報主権の移行」のもっとも象徴的な例として、1996年にシリコンバレーで起こったネット革命を挙げる。そのころ、シリコンバレーでは 「Buyer Centric Market(購買者中心市場)が到来する」と語られた。すべてのビジネスモデルが顧客中心に組み変わるというのだ。DELLに代表される、顧客が仕様を 決めるネット直販、そして顧客が価格を決める逆オークション。ミドルマンと呼ばれる小売や卸売などの中間業者は、中抜き減少によって淘汰される運命にあっ た。
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「しかし、“ニューミドルマン”と呼ばれる新しい中間業者が誕生してくるのです。それまでのミドルマンは、いわば販売代理。企業側を向いて、“安く 商品を卸してくれれば、たくさん売るよ”というビジネスです。一方、新しく誕生したニューミドルマンは購買代理。顧客側を向いて“あなたのニーズを聞かせ てくれれば、そのサービスや商品、情報をまとめてさしあげましょう”というビジネスモデルです。これこそがネットビジネスの本質です」
そして、必然の理として、この変革の流れはネットからリアルビジネスへと広がりをみせることになる。その代表例が事務用品の購買代理をおこなうアス
クルだといえるだろう。こうした「企業中心市場」から「顧客中心市場」への変革にこそ、起業のチャンスはある。そして、このチャンスを生かして起業するこ
とが、さらにこの変革を推し進めることに他ならないのだ。
情報革命の結果、人々は携帯や電子辞書などを使うことによって、言葉で表せる「知識」ならば誰でも手に入れられるようになった。これは、高度な専門知識や最新知識といった「知識」が、価値を失っていく変革が起きていることを意味している。
では、これからは何が価値を持つのか。「スキル、センス、テクニック、ノウハウといった言葉では表せない“智恵”。そして、マインド、ハート、スピ リットといった言葉を超えた“共感力”が価値を持ちます。事実、顧客の心を感じ取り、あたたかい心で細やかに対応する“智恵”と“共感力”をもったビジネ スが伸びている。つまり、これからはより“人間力”が求められる“共感社会”となるのです」
そして、この「共感社会」ではバタフライ効果が起こりやすい。北京で蝶が羽ばたくアメリカでハリケーンが起こるというのがバタフライ効果。「ひとり
の起業家の活動が、企業や市場や社会を、大きく変える可能性のある時代だということです。だからこそ、起業家には“ビジョンと言霊”“共感力と人間力”“
志と使命感”が求められるのです」
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アメリカでのエンロン、ワールドコム事件を始め、日本でも企業不祥事が続発した結果、今世界的に「CSR(企業の社会的責任)」が注目を集めてい る。しかし、日本企業が重視する「社会的責任」や「社会貢献」には、大きなふたつの誤解がある。「第一の誤解は、社会的責任を、コンプライアンスを重視す ることだととらえていること。本来、企業の社会的責任とは、“社会に対して悪しきことをしないこと”ではなく、“社会に対して良きことを為すこと”なので す。そして、第二の誤解は、社会貢献を利益の一部を使って社会貢献事業をすることだと考えていること。企業の社会貢献とは、そうではありません。“自社の 本業を通じて世の中に貢献すること”にあるのです」
もともと日本には世界に誇るべき労働感がある。それが「働く」という言葉。この言葉の意味をひもとくと、「傍(はた)を楽(らく)にする」というこ
とから生まれてきている。「なぜ、我々は一生懸命に働くのかといえば、それは、世の中の人々を幸せにするためなのです。日本では多くの起業家が、世のため
人のためという志と使命感を抱いています。これこそが“日本型CSR”であり、すべての企業が社会貢献を目指す時代が始まるのです」
「我々が、この国を変えるのだ」という志、これこそがいま、起業家が抱くべき志である。「これから登山に向かわれようとしているみなさん
は、どのような頂を見つめているのでしょうか? しかし、ひとつの頂へと登ると、そこにはさらに高い頂が見えてきます。だからこそ、しっかりと“志”を抱
いて登山をしてほしいのです」
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「志」には、似て非なる言葉がある。それは「野心」。「このふたつは明確に使い分けるべきです。野心とは、己一代で何かを成し遂げようとする願望。 志とは、己一代では成し遂げえぬほどの素晴らしき何かを、次の世代に託する祈り。そのために、われわれは、力を尽くして挑戦しなくてはならないのです」
「志」という言葉の裏側に書かれている言葉がある。それは「使命」。「使命と書いて、命を使うと読みます。志の奥にどのような使命感があるか。必ず終わりがやってくる、そしていつ終わるかも分からないこの命を、何に使うかを考えてほしいのです」
そして、こう締めくくった。「高き山の頂を見上げ、最高の登山をしてください。そして、素晴らしい挑戦に満ちた人生を共におくりましょう。私も志を同じくするひとりの挑戦者として、これからも挑戦し続けます」ゲスト審査員
(株)サイバーエージェント 藤田 晋氏
GMOインターネット(株)熊谷 正寿氏
タリーズコーヒージャパン(株)松田 公太氏
(株)テイクアンドギヴ・ニーズ 野尻 佳孝氏
(株)フォーバル 大久保 秀夫氏
ブックオフコーポレーション(株)坂本 孝氏