胡蝶蘭、観葉植物事業の新たな可能性を探求!
「Hito Hana(ひとはな)」が挑む商流改革とは?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 古田島 大介  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

既存の非効率な流通に風穴を開ける!
生産者と消費者の橋渡しの役目を果たす
展開している事業の内容・特徴

20160901-1胡蝶蘭や観葉植物などの鉢物は、エンドユーザーの手に渡るまで、いくつもの業者が介在するため、その分の流通コストが上乗せされた値段で販売されている。また、多くの生産者は、花卉市場に卸すことで対価を得ているので、消費者のトレンドやニーズがなかなか把握できない。そのため、花卉市場に出荷することが仕事という意識となり、最終消費者の意見が無視しされやすく、業界的にイノベーションが起きづらい状況が続いていた。

そんな状況のなか、生産者が消費者を意識できる新しい流通の仕組み構築を目指し、胡蝶蘭の通信販売事業を行っているのが、株式会社beer and techの代表を務める森田憲久氏だ。

「胡蝶蘭は高級ギフトの定番として認識されていますが、さまざまなお客さまにインタビューしてみると、カッコ悪い、置き場所や処分に困るなど、実はいいイメージを持っていない人がいることがわかりました。生産者はこだわりをもって自慢の一品をつくっているのに、消費者は不満という状態が連綿と続いている……この状況を変えたかったのです」

ただ、誤解してほしくないのは市場がすべて悪いわけではない。花屋さんからすると、少量多品種を組み合わせた花束やブーケなどをつくるには、たくさんの品目を一度に買える市場は非常に便利である。しかし、鉢物は生産地で最終製品として仕上げることができるため、市場を通すメリットは必ずしも多くないのだ。

長い間、切り花がメインの花屋さんがメインの販売チャネルだったため、切り花の流通構造に鉢物も引っ張られて市場を介した取引が続いていたが、ECの登場がその状況を変え始めた。その流れに乗って、テクノロジーの力を生かせば、大きな問題を解決ができるのではないかと考え、森田氏は立ち上がったのである。

同社が現在展開している主力サービス「Hito Hana(ひとはな)」のミッションは、生産者にお客さまの声が届く構造をつくることで、お客さまが本当に欲しいと思う植物を提供する、である。そのための第一弾として、インターネットを利用して産地直送型のECを展開しているのだ。

生産農家から胡蝶蘭を購入者に直送することにより、お客さまの反応が生産者に伝わりやすくなるだけではなく、中間流通マージンや店頭販売だと避けられない廃棄コストをカットし、高品質な胡蝶蘭をより早く低価格で購入者の元にお届けすることができる。「まずは複雑な流通構造をシンプルにし、つくり手とお客さまの距離を縮め、双方が本当に満足できるサービスをつくりたかったのです」。

きっかけは死を覚悟したから――。
苦難を乗り越えた先に見えた光
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20160901-2森田氏は同社を創業する前、ITベンチャー企業の新卒第1号社員として入社。会社の売り上げをつくる中心人物として大活躍しており、ビジネスパーソンとしてのキャリアも順調に積み上げていた。しかし、突如として思いもよらぬ出来事が……。「くも膜下出血」の原因になる脳動脈瘤という病気を、突如、医師から宣告されたのだ。

「頭が真っ白になった」という森田氏だったが、これが起業へのきっかけとなった。「それまで起業したいと考えてはいたものの、七難八苦をともに超えてきた会社のことを思うとなかなか行動に移せない自分がいました。しかし、脳動脈瘤を宣告されたことで、人生に限りがあることを思い知ったのです。今こそ、一歩を踏み出すときだと」。

いつ死に直面するかわからないのは自分だけではない。事故や震災のことを考えれば、みんな同じ状況だ。そう思うと、貴重な時間を共有してくれる相手に感謝したいという気持ちがふくらんでいく。今まで、ただ楽しいだけだった、みんなで乾杯している時間が、いかに幸せな時間なのか、病気になって初めて気づいた。テクノロジーの力で、社会の非効率を解消して、人と向き合う時間がもっと増えれば、きっと人生が豊かになる。そんな思いからBeer and techという社名が生まれたのである。

2014年の起業後に立ち上げた最初のビジネスは、飲み会などの予約を簡単に解決してくれる「スマート予約」というサービスだった。利用者からは「便利で使いやすい」「飲食店の予約が楽になった」との声が多く届いたが、このビジネスモデルには大きな障壁が存在した。

「ヘビーリピートユーザーがつきましたが、半年スパンでみるとそれが積み上がっていなかったのが一番の撤退要因です。サービスを磨き上げるために時間をかけたかったが、いくつかの仮説がすべてうまくいかないと、ユニットエコノミクス(一取引当たりの採算性)が改善できないモデルのため、キャッシュが持たないと判断しました」

このとき、事業アイデアをビジネスとして回していくことの難しさを痛感したという森田氏。そして森田氏は次なるビジネスモデルをつくるため、ブレストベースで1000個ものアイデアをスタッフとともに書き出した。

その後、スマート予約の撤退経験から学んだ課題をクリアしやすいプランに絞っていくが、市場規模が極端に小さくなるか、自分たちの能力では実行が難しいビジネスプランしか残らない。そこで、深い業界理解があり、自分たちだけが解決できる課題はないか、という切り口で考え直してみたという。

思い出したのは、胡蝶蘭の生産者の父親がよく言っていた花卉産業の課題だった、花卉産業が身近で、インターネットに明るい自分だからこそ、問題解決できるのではないか――。そこから、長期的に市場を拡大できるか、ミッションに沿った事業を運営できるかなどを徹底的に検証し、「Hito Hana(ひとはな)」のビジネスモデルが産声を上げたのである。

一度は事業の失敗を経験したからこそ、
今のサービスにかける思いは人一倍
将来の展望

20160901-32015年11月、まずは楽天通販サイトに出店し、ユーザーマーケティングを実施した。結果、法人からの注文が多数入るなど、予想以上の大反響。胡蝶蘭3本立ち1万円という破格の低価格で売り上げは順調に伸び、瞬く間に楽天胡蝶蘭3本立ちランキング1位を獲得。そして2015年の最終営業日に、自社ECサイトを立ち上げて以降、同社の売り上げは右肩上がりで伸びている。

競合他社との差別化戦略は価格だけではない。森田氏の実家を含め、業界に長年携わっている生産者との独自のネットワークから、オリジナルの品種を多数仕入れており、購入者を飽きさせないでいることも大きなポイントだ。

「生産者には、市場をとおして、ぼんやりとお客さまを想像するのではなく、誰が買うかを明確にイメージして、植物をつくってほしい。そのために、我々も固有のニーズをもったグループを狙い打ちできるようなチャネルをつくっていく。もともと規模化が難しい生産工程だからこそ、思い切ってニッチなニーズを狙っても、効率は大きく落とさない、差別化しやすい業態だと思っています。生産者が、つくるのが仕事という意識から、お客さまを喜ばせるのが仕事という意識に変わっていけるように、僕たちは儲かる商流づくりとIT支援を進めていく。やりたいこと、やれることはまだまだあります」

これまでのB to B向けの印象が強かった胡蝶蘭の市場だが、今年の「母の日」のプレゼント用として、オリジナルの胡蝶蘭の切り花ギフトボックスをリリース。鉢物中心の胡蝶蘭ギフトでは画期的な取り組みとなり、話題となった。

花卉業界はファッション業界と同じで、店頭での廃棄ロス率が高いビジネスである。花の廃棄をゼロにすると同時に、生産者がより消費者ニーズを汲み取り、高いデザイン性の商品を扱うことを目標に、新たなこと取り組んでいくとのこと。

「人生は有限だからこそ、人と向き合う時間をもっと増やせば、人生ももっと豊かになる。これを僕たちが守り続けるミッションとし、また、いつもブレないよう心がけています。偉そうなことは言えませんが、起業するうえで大切なことは、自分たちが社会から求められるところを探すこと、そして自分の大切にしている考えの発露としてビジネスプランをつくることではないかと、今は思っています」

思いもよらぬ病気の宣告や、事業失敗を乗り越えてきた森田氏からの、起業を目指す読者に向けたメッセージである。

株式会社Beer and Tech
代表者:森田 憲久氏 設立:2014年8月
URL:https://hitohana.tokyo/ スタッフ数:6名
事業内容:・インターネット、スマートフォンなどを利用した胡蝶蘭の通販観葉植物の通販

当記事の内容は 2016/09/01 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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