IT×医療で“孤立する”子育て家庭を救う!
現役の医師が構築した「小児科オンライン」

介護・福祉・医療

執筆者: 松元 順子  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

スマホひとつで気軽に相談できる、
小児専門の遠隔医療相談サービス 展開している事業の内容・特徴

photo1.jpg 「子どもの健康状態に不安を感じた。病院に連れて行くべきか?」――昨今、この判断に迷う親御さんが増えている。そんな悩みが生じ、慌てて病院に駆け込む前に、どうすべきかを気軽に小児科医に相談できるサービスがある。それが「小児科オンライン」だ。同サービスを運営する株式会社Kids Public代表の橋本直也氏は現役の小児科医で、都内のクリニックに勤務するかたわら、この事業を運営している。

「小児科オンライン」は、平日18時から22時の間に、子どもの健康や発育に関する質問に現役の小児科医が答えてくれる遠隔医療相談サービス。予約制であるため、自宅や外出先などから待ち時間なく相談することができる。LINE、電話、Skypeなどが自由に選べ、スマホひとつで手軽に相談できるのが特徴だ。

「遠隔医療相談は、まだ広く知られていない新しいサービスです。ネット経由で子どもの健康上の悩みを相談することは、心理的ハードルが高いと感じる方も多いはず。そこで、できるだけ気軽に安心して利用していただくために、担当医師の顔写真、プロフィール、得意分野を公開。サイトも温かく親しみやすいデザインにしました」

また、昨年末の医療系サイト関連の事件を機に、今まで以上にメディアの「信頼性」が問われるようになった。そんななか、同社は医師が全記事を執筆・監修するオウンドメディア「小児科オンラインジャーナル」も運営している。実際に寄せられた相談内容やよく外来で尋ねられる質問などをもとに記事を作成・情報発信していることに加え、「小児科オンライン」にもリンク。当該記事を執筆した医師に直接相談することも可能となっている。

「ネット上にあふれる有象無象の情報に惑わされてほしくないという思いから当メディアを立ち上げました。医療系の記事は、“平易だが不正確”な情報と“難解だが正しい情報”の2極化の傾向があると感じています。私たちは医師として“誰でもわかりやすく正確な情報”を伝えることを最も大切にしています」

ITの力で子育ての悩みを解消し、
孤立している母親を助けたい! ビジネスアイディア発想のきっかけ

photo2.jpg 橋本氏は、小児科医として約5年間勤務した後、東京大学大学院に進み公衆衛生学を学んだ。そこで、知り合った同級生が立ち上げたウェブメディアにライターとして参加したのを機に、起業に興味をもったという。また、2015年8月に厚生労働省による遠隔診療に関する通達が発表されたことを受けて、「ITを活用することで自分が目指す医療が実現できるのでは」と考え起業。2015年12月、大学院2年のときだった。

「小児科医として勤務していたころ、鼻水や虫刺されといった軽症で受診される親御さんが多いことに驚きました。近年、核家族化が進み、子どもの発育や健康に関する不安を相談できる人が周りにいないことが原因なのでしょう。また、『心配になりインターネットで調べたところ余計不安になった』と救急外来に来られるケース。こうした“子育てが孤立している現状”を変えていきたい。スマホで気軽に相談できる場をつくることで、親御さんの子育てに関する不安を解消できたらという思いで起業しました」

医療業界一筋に歩んできたことから、ビジネスの知見や人脈がまったくなかったという橋本氏。起業と同時に、スタートアップ・インキュベータ 「Open Network Lab」の起業家育成プログラムに参加した。そこで「パートナー企業や投資家とのコネクションができ、人脈の構築や業界の知見の吸収につなげることができたことが大きかった」と語る。また、仕事に対する考え方も変わっていったという。

「起業前は、病院に患者さんが来てくれるのが当たり前という受け身の世界。自ら動いてサービスを売り込むということは、私にとってハードルが高いことでした。そこで今までの考え方や価値観を変えなければならないという必要性を強く感じました。しかし、そうした過程のすべてが苦労というよりも、むしろ新鮮だったのです」

そして、橋本氏の地道な努力が実を結び、「Tech Crunch Tokyo2016」で優勝するという栄誉を得る。その結果、同サービスの認知が大きく広まっていった。橋本氏1人でスタートした同社だが、共感の輪が徐々に広がり、現在6名の運営メンバーと33名の志を同じくする小児科医がサービスをサポートしている。

企業や健保組合との提携を進め、
遠隔医療相談の文化を根付かせたい 将来の展望

photo1.jpg 2016年5月の正式リリース以降、着実に導入実績を積み上げている。具体的には、富士通、リクルート、マルハンなど複数の大手企業が従業員向けの福利厚生制度として採用。2017年5月からは、三菱商事が、育児両立支援施策の一環として「小児科オンライン」をトライアル導入・提供を開始した。

「個人向けの有料会員制度も設けています。ただ、一人でも多くの方に利用していただけるサービスにするためにも、個人から利用料を徴収する方向ではなく、企業や健康保険組合、自治体との提携を進め、個人は無料で利用できるかたちで事業を拡大していきたい」と橋本氏は言う。

また、新たに同社が取り組んでいるのが、保育と医療の連携だ。保育士と小児科医とをつなぐホットラインとして「小児科オンライン」を活用してもらうことで、保育士の不安にも寄り添いたいのだという。「『集団生活になじめない』『持病をもつ子どもを扱う際の注意点を教えてほしい』といった相談に応じることで、保育士の方の不安や負担を少しでも軽減したい」。すでに、東京都認証保育所を運営するウィズチャイルドが「小児科オンライン」を導入済みだ。

「私は起業家ではなく、あくまでも医療者」と橋本氏。「収益を上げることは事業を継続するうえで必須であり、大前提ですが、それが最終的な目標ではなく、“医療者”として、社会的意義があるサービスを世の中に提供できているのかという点に最も重きを置いています。今後は、本当に子育ての不安に寄り添い、子どもたちの健康に貢献できたのかといったデータを蓄積しながら、産学官連携で『遠隔医療相談』の価値とエビデンスを社会に発信していきたい」と力を込める。

「今後は企業との連携をさらに進め、子育てに関する悩みが生じたときに、真っ先に思い浮かぶようなサービスへと成長させたい。ビジネスの推進力を活かし、毎年生まれる100万人の子どもたちとそのご家族に『小児科オンライン』を届けること。それが、私たちの一番の願いです」。

株式会社 Kids Public
代表者:橋本 直也 氏 設立:2015年12月
URL:https://syounika.jp/ スタッフ数:6名
事業内容: 事業内容: 小児専門の遠隔医療相談サービス「小児科オンライン」の企画・開発・運営

当記事の内容は 2017/11/7 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。