睡眠薬に代わってアプリを「処方」?
スマホ時代の新たな医療が見えた!

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 佐々木 正孝  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

患者の睡眠データを解析し、
チャットを通して改善策を提供する

展開している事業の内容・特徴

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少子高齢化による社会保障費の増大についての議論が活発だ。医療費、特に薬剤費が増大するなか、服用剤が増えることによる弊害「ポリファーマシー(多剤併用)」など、医療現場では多くの問題が山積している。

ご存じだろうか? 日本では現在500万人以上が睡眠薬を服用しており、先進国で群を抜く処方量の多さが問題視されている。今回紹介する、サスメド株式会社がフォーカスするのは不眠症治療だ。同社代表の上野太郎氏は薬剤に依存しない「認知行動療法」に着目し、スマホアプリによる療法の確立を目指している。

「認知行動療法とは、患者の認知や行動に働きかけて病状改善を目指すものです。副作用などのリスクも少なく、長期的には睡眠薬より優れた治療効果が実証されています。ただ、1人の患者に割ける診察時間の制約もあり、日本の医療現場では普及がなかなか進みません」

認知行動療法は30分間の治療を1週間に1回程度、8週間にわたって行う必要がある。しかし、医師が1人の患者に30分もの診療時間を割くのは困難。また、保険適用されないこともあり、不眠症医療は睡眠薬に頼らざるを得ないのが現状だ。

サスメドが開発中のアプリは、認知行動療法を実装したもので医療機器に当たる。不眠症の診断を下した患者に対し、医師は薬と同じようにアプリを「処方」する。アプリから入力された睡眠データを基に睡眠を妨げているものを解析し、チャットを通してその患者に合った対処法を提示。不眠症の改善を促していくという仕組みだ。同社はすでに複数の医療機関と連携し、2016年9月から臨床試験をスタートさせている。

「臨床試験は医薬品医療機器等法など、さまざまな規制をクリアするために行っています。薬ではなくアプリという形態ですが、あくまで医学的なエビデンスに基づいた医療機器として開発しているのです。2020年をメドに承認を得て、不眠症治療に広く利用されていくことを目指しています」

医療現場のニーズとICT技術をマッチング。
新しい時代の医療を提案すべく、起業

ビジネスアイディア発想のきっかけ

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もともと上野氏は医師としてキャリアを積んできた。睡眠の基礎研究を進めながら臨床現場の問題を肌で感じていたという。起業志向はなかったが、医療の最前線が抱えるジレンマ、そして医療費増大という社会問題を解決するヒントを模索するうち、ICT技術の活用に活路を見いだした。

「外来で訪れる多くの不眠症患者に対し、薬以外の治療法が提供されていないのが現状です。現場の医師は『この患者さんに投薬治療をすることは、医療費の増大に影響するかもしれない。それでも、目の前の患者さんの症状を少しでもよくしてあげたい』という問題意識を抱えながら診療にあたっています。この現状を解決する一つの策が、アプリの活用ではないかと考え、サスメドを立ち上げることにしたのです」

医療費を社会が負担可能なコストに抑えつつ、医療のクオリティは担保しなければならない。それが医療現場の問題意識である。サスメドという社名には、「サステイナブル(持続可能)なメディスン(医療)」という志を込めた。上野氏が目指したのは、社会保障費増大に対する医療現場からの回答だ。認知行動療法アプリを着想したのは自然な流れといえるだろう。

本事業の立脚点は医師の立場にある。プログラミング、データ解析に習熟したコアメンバーも医師免許の取得者。手がけるソリューションはあくまで医学的なエビデンスにのっとったものだ。その起業理念は着実に評価され、スタートアップ後のシードステージ、アーリーステージは順調に推移している。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による助成を受け、研究開発型ベンチャーを支援するベンチャーキャピタルからも資金を調達。ICT技術と医療現場のニーズを融合したソリューションの開発に、各方面から熱い期待を集めている。

AI、ビッグデータを活用した
デジタル医学の確立を目指して

将来の展望

サスメドが開発中のアプリは、スマホからさまざまな健康データが取得できることがメリット。この医療サービスにより、ウェアラブルデバイスを使わずとも、詳細なデータがリアルタイムで収集・分析できるようになる。

「認知行動療法だけではなく、ときには他の療法を推奨したり、睡眠薬を投薬するにしてもある程度種類を絞り込めたりするようにもなるでしょう。いただいた医療データを解析することで、『不眠症』と一括りにしていた症状をさらに細かく分類。それぞれに合った治療法が提供できるようになるかもしれません。患者さんそれぞれに適した治療を提供するオーダーメイド医療が視野に入ってくるはずです」

投薬に依存せず、きめ細やかな不眠症治療の提供を目指していくだけではない。その先には、ビッグデータを活用した新たなデジタル医療の世界も見通せる。

「アプリの開発で構築したAIは、さまざまな医療データを分析できるモデルです。今までの医療では、病院にかかり、医師が診察して初めて患者さんの健康状態がデータ化されました。それも紙カルテや電子カルテなどさまざまなフォーマットがあり、医療データを一気通貫に分析できるシステムはなかったのです。しかし、私たちのプラットフォームを活用することで、健康保険組合や企業がストックしている加入者、従業員の医療データを効率的に分析していただけます。これにより、保健事業、施策を効率的に進められるようになるでしょう」

同社は医療データ分析プラットフォームの導入を目指し、自治体の協会けんぽと交渉を進めている。提携が実現すれば、ヘルスデータの解析が、健康・予防医学に用いられるようになる日も近い。これは、冒頭に挙げた「社会保障費増大の解決」への大きなアシストに直結するだろう。

「このほか、ブロックチェーンの技術を医療データ管理に活用し、医薬品開発のコスト削減を図る仕組みも開発し、医薬品開発の業務受託機関(CRO)への提供を目指しています。開発コストの削減により、新薬価格も低減できるのではないかというねらいです。さまざまなアプローチで、社会保障費の適正化に貢献していければ」と上野氏は語る。

社会問題の解決だけではない。AI、ビッグデータを駆使した医療データ分析システムの確立は患者や医療現場に大きなメリットをもたらすはずだ。デジタル医療を新たな分野として確立すべく、サスメドの挑戦は続く。

サスメド株式会社
代表者:上野 太郎 氏 設立:2015年
URL:http://susmed.co.jp/ スタッフ数:6名
事業内容:
事業内容: 医療関連機器、アプリケーションの開発、医療関連情報のサーチ・提供。

当記事の内容は 2017/11/2 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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