過去の診療情報を患者自身が管理する時代に――。
医療の質の向上にも貢献する“PoHR”とは?

介護・福祉・医療

執筆者: 髙橋光二  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

大容量の診療データを患者がスマホで保管。
セカンド・オピニオン取得などに活用 展開している事業の内容・特徴

photo1.jpg たとえばレントゲン画像など、個人が自らの診療情報を主体的に管理し、セカンド・オピニオンの取得や医療機関の選択の際に役立てるとともに、医療全体の質向上につなげる「PoHR(Person-owned Health Record)」の実現を目指している、株式会社HeSeL(ヘッセル)。

米国診療情報管理学会で「患者が保持する生涯にわたるカルテであり、患者の意思決定や医療サービスの質向上に貢献し、医療機関のみならず患者本人も自身の診療データを取得・管理するもの」と定義されている「PHR(Person Health Record)」という概念がある。「PoHR」は、ここにさらに“owned”を付けて強調しているかたちだ。

アメリカのPHRは主にカルテを対象としているのに対し、同社が開発・提供しているPoHRソリューションは画像情報も加え、特許も取得した世界唯一の仕組みである。同ソリューションは、医療機関向け「MD Professional」、健診センター向け「HeSeL MORE」と、医療機関を利用する人が無料で利用できるスマートフォンアプリ等で構成されている。

「MD Professional」と「HeSeL MORE」は、クラウド環境もしくは院内外に設置したサーバーに置かれた血管造影、CT、MR、超音波動画などの大容量の検査データを、患者や受診者のスマートフォンに転送するシステム。データは転送後に自動削除されるため、医療機関にとってはハード環境に大きな費用をかけずに済むところが特長的だ。医療機関利用者は、これらのデータを自分のスマートフォンアプリに保管することで、受診した医療機関に不安を感じた場合などに別の医療機関でセカンド・オピニオンが受けやすくなり、より最適な医療機関を選ぶ際の助けとなる。また、初めて訪れた場所で体調不良を感じて診療を受ける際、ドクターに自分の過去の医療情報を提供できるのだ。

「こうした機能を通じて、医療の質を底上げする役割を果たせると自負しています」と同社代表取締役社長の崔迥植(チェ・ヒョンシク)氏は話す。

患者・医師間の“情報の非対称性”を低減。
“いい加減な診断”の撲滅を目指す! ビジネスアイディア発想のきっかけ

photo2.jpg 崔氏は、1982年に韓国の延世医科大学卒業後、延世大学校医療院の放射線科専門医として勤務していた。その後、軍医などを経て1992年、米ワシントン大学に1年間留学。ここで、PACS(Picture Archiving and Communication System=医用画像保管伝送システム)の詳細を学ぶ。

帰国後、サムスン医療院放射線科のリーダーに就任し、韓国では初、世界でも4番目のケースとして同院にPACSを導入した。この成功体験を生かすため、1995年に医療機関へPACS導入を手がける株式会社INFINITT Healthcareを設立する。経営者として韓国における同システムの販売シェアNo.1を獲得させた。

その後、2000年から2009年までは、同じくPACS導入や読影(レントゲンやCT、MRI、超音波、心電図などの検査によって得られた画像から所見を読み、診断を下すこと)のアウトソーシングサービスを手がける株式会社メディカルスタンダードの代表を務め、2005年には日本法人・株式会社PACSPLUSを設立して海外進出を果たす。そして、2013年に韓国でHeSeLを設立し、PoHRの開発・提供に着手する。

「医師として活動を続けるなか、残念ながら、医療界にはいい加減な診断をする医師が少なくない現状を知り、憂いていました。それは、患者さんと医師の間に“情報の非対称性”があるからにほかなりません。患者さんが専門家である医師に依存せざるを得ない構図が諸悪の根源です。そこで、アメリカのPHRなどを参考にしながら、患者さんが自分の診断データを持つことで、最適な医師を選び、さらに、いい加減な診断をする医師が淘汰される仕組みをつくろうと決意しました」

PoHRソリューションは、PACSPLUSを開発していた医療画像のハンドリング技術を有しているエンジニアと崔氏との間で共に勉強し、コミュニケーションを取りながら開発を進めた。「データ量の大きな医療画像の標準フォーマットであるDICOMや、医療用テキストの標準フォーマットHealth Level7は、PACS開発を長年手がけてきたので既に保有していました。しかし、4~5年前まではスマホが普及しておらずアプリでの医療画像のハンドリングを経験していなかったため、手探りで勉強しながら最新の開発言語を適用させることに苦労しました」と崔氏。しかし、そんな難度の高いシステムを見事完成させ、特許獲得という成果につなげた。

2015年、PACSPLUSをHeSeLに改組。同社を親会社とし、韓国法人をHeSeL KOREAとして子会社化。その経緯を、崔氏は次のように説明する。「日本に本拠地を移したのは、韓国よりはるかに市場が大きく、PoHRソリューションを世界標準とする試金石となると考えたからです。また、日本企業から投資を受けたことも大きな後押しとなりました」。

ブロックチェーンにも積極的にアプローチ。
新たな価値“Connected Health”をつくる 将来の展望

photo1.jpg 昨今、各国の医療機関では電子カルテシステムやPACSの導入が進んでいる。地域の医療機関同士がこうした情報をやりとりし、より効率的な医療体制を実現させるための「地域医療連携ネットワーク」が構築され始めているのだ。

たとえば、患者が地域の「かかりつけ医」で受診したのち、より高度な環境を持つ総合病院を受診すべき事態となった際、「かかりつけ医」から総合病院に受診データを送ることができればスピーディかつ、より正確な診療ができるだろう。

「しかし、まだ患者さん自身が自分の診療データを持っているわけではないため、“患者不在”であるとの問題意識があります。だからこそ私は、患者さん中心のPoHRを、地域医療連携ネットワークを補完あるいは代替するものとして世界標準の仕組みにしていきたい」と崔氏は意気込む。その思いをかたちにすべく、近い将来、日本市場でのIPOで資金調達し、東南アジア、中国へと徐々に広げていく計画だ。

PoHRソリューションは、着手から3年で、韓国で50カ所強、日本では約10カ所の医療機関や健診施設が導入している。この後は、代理店展開をスタートし、スピードを上げて販路を拡大していくという。スマホアプリのダウンロードは約10万件だ。「ブロックチェーンなどの新技術にも積極的にアプローチしながら、システムとしての完成度をさらに高めていきます」と崔氏。未来に掲げるキーワードは、IHE(Integrating the Healthcare Enterprise =医療情報システムの相互接続性を推進する国際的なプロジェクト)に対応した“プラグインヘルス & コネクテッドヘルス”。

「一事業者や一製品だけで、サービスを成立させることは困難な時代です。何かと何かを組み合わせることで、新しい価値を生み出すことができる。たとえば、海外では一般人がタクシードライバーとなる『Uber』が始まっています。そんなアイデアも参考に、様々な力を有する人をつなげて、まったく新しい医療のかたちをつくっていきたいと思っています。あくまでも、患者さん主体で!」

株式会社HeSeL
代表者:崔 迥植 氏 設立:2015年2月
URL:http://www.hesel.jp/ スタッフ数:10名
事業内容: 事業内容: モバイルアプリケーションの企画・開発、医療用ソフトウェアの企画・開発ほか

当記事の内容は 2017/10/19 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。