高齢の親の話したい欲求に着目!
聞き上手を科学して生まれた新サービス

介護・福祉・医療

執筆者: 本多 小百合 編集:菊池 徳行(ハイキックス)

独自の傾聴メソッドで親子に寄り添う
「つながりプラス」と「親の雑誌™」 展開している事業の内容・特徴

photo1.jpg 離れて暮らす高齢の親は今、元気にしているのだろうか? 親の様子が気にはなっても、忙しい現役世代にとって頻繁に様子を伺いに行くのは難しいだろう。特に不自由なく生活してくれていれば、ほとんど連絡しないという人も多いのではないか。そんな介護未満のシニアに定期的に電話を入れ、会話の内容をリポートしてくれるサービスがある。株式会社こころみが提供するサービス「つながりプラス」だ。

訓練を受けたコミュニケーターが担当となって、毎週1~2回電話をかけ、10分ほどの会話の内容を聞き書きリポートとして報告。会話の内容は世間話のようなたわいのないものだが、現在の暮らしぶりが手にとるようにわかり、同サービスを利用する子世代からは好評だという。「安否確認という意味ではモニター機器を使った見守りサービスもありますが、大きな違いは親側にメリットがある点です」と話すのは、同社代表の神山晃男氏。

「センサーによる見守りは子ども側に安心が得られても、親側は見守られている安心感を意識しづらい。一方、電話サービスは親側に話す楽しさがあります。慣れるまでに時間がかかる方もいますが、実は話し相手を欲しているシニアの方も多く、ほんの二言三言でも会話を交わすことで皆さん元気になります」

担当するコミュニケーターは独自の「傾聴メソッド」を学んだプロ。回を重ねて信頼関係ができてくると、子どもには遠慮して言いづらいことを話すようになるなど、親子のコミュニケーションの架け橋にもなっている。安否確認にとどまらない無形の価値が双方に喜ばれ、途中解約はほとんどないという。

「お電話していると面白いお話をお聞きすることがあります。『聞き書きレポート』でお子さんにお伝えしてはいますが、これをもっと活用できないかと新たなサービスを始めました」

誕生したのは「親の雑誌™」。こちらも訓練を積んだスタッフが親を取材、丸ごと一冊、親の人生を特集した雑誌をつくる。これが当たり、今では同社の主力サービスの一つになっている。

「9割はお子さんからのプレゼントです。サラリーマンや主婦の方など、ごく普通の人生を歩んでこられた方は取材にいくと大抵は照れくさそうにしています。でも、プロが当時の心境や現在の思いをじっくり聞き出すと、第三者が聞いても面白いお話がたくさん出てくるんです。日頃、口には出せない思いがあるのでしょう。取材の終わりには皆さん必ずニコニコになります」

自社のコア技術を明確化したことで
「使うとよい、でも買わない」状態を打開 ビジネスアイディア発想のきっかけ

photo2.jpg 発想のきっかけは自身の両親との関係だった。神山氏の地元は長野。兄弟は全員、東京に出てきているが、両親は今も長野で暮らす。現状は問題ないが、いずれ片方が亡くなって独居になれば心配だ。自分が行けなくても定期的に電話してくれるサービスがあればと思った時に、ぽっかりと空いたニーズに気が付いた。

試しに、高齢者の多い団地に出かけて話をしてみると、相手が見知らぬ人間にも関わらずどの人も話し始めると止まらない。「この話したいという欲求に応えることが重要ではないかと考え、サービスのコンセプトが生まれました」。

気持ちよく話してもらうためには、上手な聞き手が要る。老年心理学者、認知症専門の医師、そして、役者と各方面から知恵を借り、独自のメソッドを開発した。上手い役者は相手の台詞との間合いをはかることから“聞き上手”が多いのだという。幅広い意見を参考に、試験導入では自身も高齢者の方に電話をかけつつ、コミュニケーターの育成プログラムを練り上げた。

「モニターで10名ほどに体験していただいたところ、満足度も高く全員が有料サービスへの移行を決めてくださいました。立ち上げはスムーズでしたが、その後が苦労しました」。 体験すれば非常によいサービスだとわかる。しかし、コンセプトが新しいために話を聞いただけでは、購入に至らない。サービスの性質上、今すぐやらなければという危機感から始めるものでもなく、体験者が周囲に薦めるようなものでもない。チラシも撒いた。セミナーも開いた。それでも効果がなく、売り上げが立たずヒヤヒヤしたこともあったという。

「唯一、法人向けの福利厚生としての導入でオーダーが増えましたが、それもやればやっただけ拡大するというものでもない。今はWebで見つけてくださる方からの問い合わせが中心で、減らないけれど少しずつ増えるという線を維持しています」

むしろ、転機をつくったのは派生して生まれた「親の雑誌™」のほうだ。「もともと親へのプレゼントだとか、自分史だとか、近いサービスがあるのでイメージがしやすいようです。手にとれる雑誌があるためメディアにもとり上げられやすくなりました。二つのサービスはまったく別のものとして提供していますが、こちらをきっかけに『つながりプラス』を始める方もいて、相乗効果が生まれています」

ロボット時代にこそ求められる“聞き上手”。
多彩なサービス展開で社会への浸透を図る 将来の展望

photo3.jpg サービスが増えたことで、「話を聞く技術」という、同社の提供する価値がわかりやすくなった。そのことで、事業の幅にも広がりが生まれ始めた。同社が洗練させた聞く技術には、時代の最先端をいくロボット開発会社も注目している。現在、チャットボットの開発や、今秋に発表されるシニア向けアプリへのシナリオ提供などにも取り組んでいるという。

「独居高齢者向けのロボットなのですが、開発会社ではロボットはつくれても肝心の会話の中身に関するノウハウがないのです。人と話すことに特化した会社は探しても他になく、引き合いをいただくことが増えました」

単なる機械的なコミュニケーションでは気持ちは満たされない。10分ほどの定期的な会話で、ふさぎ込んでいた人がカルチャー教室に通い始めた、何となく名刺をつくろうと思い立った、そんな実績をつくってきた“聞き上手”の知恵を入れ込めば、それは生きたサービスになる。

「これまでのBtoC領域もブラッシュアップしながら、BtoBのニーズにも応えていきたいと思っています。まだまだ規模の小さな会社ですが、こうしたプロジェクトを通じて、少しでも世の中に“聞き上手”が広がればと思っています」

創業当初は、見守りサービスというジャンルもあまり知られていなかった。親の一人暮らしを話題にすることもはばかられるような状況だったが、現在では社会の理解も得られるようになってきている。

「ただ、社会的にはまだネガティブな文脈で語られることが多く、かつての同僚にもいまだに『介護の仕事って大変だよね』と言われます。でも、高齢者の方お一人お一人を見ていると、必ずしもお先真っ暗ではないと感じます。結局、気持ち一つという面もあって、年をとるのは寂しいと思えば寂しいことだし、年をとるのが楽しいことだと思えば楽しいことになる。私たちのサービスはそこをポジティブにしていく手段でもあると思います。“聞き上手”を広めて、少子高齢化の時代を明るくしていきたいです」

株式会社こころみ
代表者:神山 晃男 氏 設立:2013年6月
URL:https://tsunagariplus.cocolomi.net スタッフ数:7名(在宅コミュニケーター 約50名を除く)
事業内容: 高齢者の見守りサービスやヘルスケアサービスの開発、実施、それに付随するコンサルティング事業等

当記事の内容は 2017/09/5 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。