誰もが上質な音楽を楽しめる環境をつくる!
人気作曲家が開発した3Dサウンドシステム

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執筆者: 松元 順子 編集:菊池 徳行(ハイキックス)

音楽家としての経験を生かし、
家庭用スピーカーで立体音空間を実現 展開している事業の内容・特徴

170725_1 映画館で作品を鑑賞する醍醐味のひとつは臨場感あふれるサウンド。近年、自宅で映画を楽しむためのホームシアター機器も増えているが、そんな設備を設置できる家庭はほんの一握りだろう。そこで、特別な設備が無くても、本格的な3Dサウンドが再現できる「KISSonix 3Dシステム」を開発したのがキスソニックス株式会社の伊藤カズユキ氏だ。

伊藤氏は作曲家、アーティストとして活動する傍ら、長年に渡り3D音響の研究を続けてきた。その地道な研究の成果が「KISSonix 3D」だ。同システムの最大の特徴は、家庭用のスピーカーで再生するだけで、5.1chサラウンドのようなハイクオリティの3D音響を再現できることにある。

現在、「KISSonix 3D」は、CD、DVD&ブルーレイなどのソフト、CM、イベントなどの音響演出と、幅広い場で活用されている。同システムが導入されたDVD&ブルーレイを自宅のテレビで再生するだけで、映画館さながらの3Dサウンドが楽しめるのだ。また、テレビのみならず、YouTubeなどのWebストリーミングでも立体音空間を実現できる。

「音楽は歌詞やメロディだけでなく、サウンドが上質になればもっと楽しめるんです! サウンドは肌で感じるもの。『KISSonix 3D』を通して、“本物の音”をぜひ体感してほしい」と目を輝かせる伊藤氏。具体的な仕組みについては企業秘密であると前置きしつつも、次のように説明してくれた。

「どんなスピーカーであっても、良質な音が聴こえるように“音の配置”を前後、左右にバランス良く調整しています。また、人間は耳の奥にある繊毛の振動を電気信号に変えて脳の聴覚野に伝えることで音の方向や距離を判断しています。つまり、耳ではなく脳が音を認識したときに初めて『聞いた』という感覚になるわけです。そうした脳科学の仕組みと音楽家としての知見を融合して開発したのが、『KISSonix 3D』なのです」

中学生時代の音楽体験が原点。
25年に渡る研究を経て完成したシステム ビジネスアイディア発想のきっかけ

170725_2伊藤氏は、1982年にワーナー・パイオニアにスカウトされ、専属の作曲家としてデビュー。アーティストへ楽曲提供を行うとともに、数多くのテレビCMを作曲するなど音楽業界の第一線で活躍してきた。その後、フリーの作曲家として独立し、1988年に音楽制作事務所・株式会社コンプハウスを設立。楽曲制作の傍ら立体音響の研究をスタートする。

「私が3D音響の研究を始めた原点は、中学生時代までさかのぼります。当時、立体的に音が聴こえるという『4チャンネルステレオ』に興味があり、実際に試聴してみたのですが、思っていたほどの聴こえ方ではありませんでした。そこで、もっと良い音を自分でつくりたい、高額なオーディオ機器を買うことができない子どもでも“本物の音”に触れられる環境をつくりたいと考えたのがきっかけです」

当初、「KISSonix 3D」のアイデアを音楽業界に提案したら興味をもってもらえるだろうと期待を抱いていた。しかし、業界関係者の反応は予想に反して冷たいものだったという。

「音楽・テレビ業界は、基本的に新しい人やものを受け入れない保守的な風潮があります。CM制作時に3D音響を提案したときも、『普通でいいから』となかなか受け入れてもらえませんでした。というのも、新たに3D音響を導入するとなると、イチからクライアントに説明しないといけない。加えて、テレビ局のCM考査を通すための手続きに時間がかかるといった問題もありました」

そんななか、2009年公開の3D 映画『アバター』が大ヒット。それと同時期に液晶テレビが登場し、「CMも3D音響で」という流れが出始めた。ようやく光明が見えたと思った矢先、東日本大震災が起こり、時代は一気に省エネ路線へとシフトしていった。

そんな伊藤氏に転機が訪れる。2014年にIT関連のインキュベーションイベントに出展したところ予想以上の反響があったのだ。「そこで音楽業界に縛られることなく、さまざまな場で発表することが大切だと気付きました」。

その後、IPO関連のセミナーに参加。そこで偶然隣合わせた大手監査法人のスタッフから起業に関するアドバイスを受けるように。2014年、3D音響事業をスピンアウトさえるかたちでキスソニックス株式会社を設立した。研究開始からなんと25年もの歳月を経て「KISSonix 3D」は誕生したのだ。

人気映画監督・岩井俊二氏の作品にも採用。
3Dエンコードという新たな市場を開拓する 将来の展望

2014年から3年連続でイノベーション・リーダーズ・サミット(ILS)に出展。昨年10月に初めて「KISSonix 3D」のプロセッサー機を展示したところ、「これを使うだけで、こんなに素晴らしい音が出るんですね」と今までにない大きな反響があったという。

「この3Dプロセッサー機は、MAミキサーやレコーディングエンジニアの方々なら、すぐに使えるシステムです。これにより『KISSonix 3D』の汎用性がさらに高まりました。また、『KISSonix 3D』は、目的に応じてカスタマイズするだけで、どんなハードウェアにも取り込めるプログラムです。この特性を生かして、3Dエンコードという新たな市場を開拓していきたいと考えています」

設立から3年。「KISSonix 3D」は各方面から注目を集め、高い評価を得ている。昨年9月には、岩井俊二監督からオファーを受け、映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』のDVD&ブルーレイの3Dサウンドトラックを担当。今年8月公開予定の映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の原作ドラマDVDの音響制作も手がけた。また、大手レコード会社の新譜ミュージックビデオの音響制作も担当。渋谷ヒカリエやよこはまコスモワールドなど、国内外の施設、テーマパークにも採用されている。

昨年11月には、ジェトロ(日本貿易振興機構)の海外輸出支援プロジェクトの認定を受け、現在、シリコンバレーへの進出に向けて準備を進めているところだ。今後は、大手IT企業を対象にプログラムのライセンス販売を行っていく構えだという。さらに、音楽関連とはまったく異なるジャンルのプロダクト開発も進行中とのこと。「KISSonix 3D」の可能性は広がるばかりだ。

「今後は一人でも多くの方に『KISSonix 3D』という“新しい音楽の楽しみ方”を知っていただき、オーディエンスの心の中にもイノベーションを起こしていきたいですね。そして、『KISSonix 3D』をさらに広めていくことで、世界中の誰もが“本物の音”を気軽に体感できる環境をつくる。これが私の一番の願いです」

キスソニックス株式会社
代表者: 伊藤 カズユキ 氏 設立:2014年8月
URL:http://kissonix.jp スタッフ数:6名
事業内容:KISSonix 3Dによる立体音空間トータルプロデュース、音響ソフトウェアおよび機器開発・販売

当記事の内容は 2017/07/25 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。