介護機器にも使われている技術を応用
赤ちゃんの命を守る睡眠センサー

介護・福祉・医療

執筆者: 本多小百合 編集:菊池 徳行(ハイキックス)

新製品は赤ちゃん向け睡眠センサー。
独自技術を活用したIoTソリューション 展開している事業の内容・特徴

170711_1 原因不明の病気、乳幼児突然死症候群(SIDS)で亡くなる赤ちゃんが、国内で年間100名ほどいる。このニュースを知って、「自社の技術を生かせないか?」と考えた会社があった。株式会社リキッド・デザイン・システムズだ。

同社は呼吸や体動など、生体のセンシング技術を有し、これを応用した製品やサービスを生み出している。これまでにリリースした製品のひとつが呼吸センサー。介護施設向けのモニターシステムで、寝たきりの入居者のベッドに設置し、クラウドで呼吸の状態を監視する。

SIDSを引き起こす原因は明らかになっていないが、関連性が高いと指摘されているのが、うつぶせ寝だ。乳幼児のうつぶせ寝はSIDSのリスクを高めるばかりでなく、窒息などの不慮の事故にもつながる。厚生労働省も、1歳になるまでは仰向けに寝かせるよう、呼びかけているほどだ。だが、大人が24時間つきっきりで見守り、うつぶせになる度に向きを変えるのは現実的ではない。

そこで、介護用の呼吸センサーをもとに赤ちゃん向けに改良したのが、睡眠センサー「IBUKI」だ。専用のベビーマットの下に小さなエアパッドを置き、その上に赤ちゃんを寝かせる。本体のスイッチを入れると、エアパッドが自動で呼吸と体動を検知し、呼吸に異常が見られた場合は本体から警告音を発する。

「業務用の介護施設向けのセンサーは、クラウドに接続して遠隔で監視する仕組みになっていました。けれど、息ができなくなっている赤ちゃんに対応しなければいけないのは、すぐ近くにいるお母さんや保育士さんです。そこで、システムにつながなくても状況がわかるように、センサー本体に警報装置を組み込みました」と、同社代表の遠山直也氏は語る。

呼吸を監視する既存の医療機器はあるが、100万円以上と高額で、精度保持のために直接身体に機器を巻き付ける必要がある。自宅や保育施設で使うのであれば、機器の取りつけや操作は簡単なほどいい。そこで、エアパッドを使った非接触型のセンサー「IBUKI」の開発に取り組んだというわけだ。

今年5月に完成した「IBUKI」の販売価格は3万円を予定。これなら個人でも充分に手の届く価格だろう。事前の実証実験の結果、「安心して、ぐっすり眠れた」(育児中の母親)、「5分に1度の呼吸確認が義務づけられ、苦労していた。販売されたら、すぐにでも購入を検討したい」(保育施設担当)などの声が届いているそうだ。

SONYで生まれ、失われかけていた技術と
出合った時に、すべてが始まった ビジネスアイディア発想のきっかけ

170711_2睡眠センサー「IBUKI」や介護向けの呼吸センサーのベースになっているのは、同社が独自で開発に取り組んできたバイタルセンサー技術だ。その始まりを遡ると、1990年代のSONYに行き着く。

その当時のSONY創業者・井深大氏が立ち上げた研究所では、心拍、呼吸、体動などの生体情報を感知するセンサーが開発されていた。社長交代により同研究所が閉鎖されると、この研究所で生まれた生体センシング技術は、社外に出た技術者が設立したベンチャー企業、エム・アイ・ラボ(代表取締役社長:高島充)に継承された。ところが、このベンチャーも諸般の事情により、開発の継続が困難になってきた。消えそうになっていたバイタルセンサー技術に目をつけたのが、リキッド・デザイン・システムズの熊田氏だった。

「埋もれている日本の優れた技術を探していたときに、このバイタルセンサー技術に出合いました。当時、父親が要介護だったこともあり、この技術を必要としている人が実は多いのではないかと考えたのです」

半導体設計の受託開発会社として出発したリキッド・デザイン・システムズだったが、これを機に大きく舵を切った。

「2013年当時、半導体事業の売り上げが半減しており、進むべき道を迷っていました。そんな時に、この技術に出合い、新たな事業の柱にしようと決意。社内からは大きな方向転換への反対もありましたが、必ず多くの人に喜ばれるものになると信じて突き進んできました。ただ、バイタルセンサーの技術を譲り受けただけでは利益は生まれません。用途開発に取り組んだ4年間をふり返って、何より苦労したのは資金繰りでした」と遠山氏。

ベンチャーキャピタルに相談するも、市場が未知数のものには投資できないと断られる。すがる思いで獲得した助成金も部分的な補助で、3分の1は自力で用意しなくてはならない。開発費用は出ていく一方、売り上げの見込みもつかない。背水の陣で、興味を示すメーカーがいればデモを見せに飛んでいき、「こんなものがつくれないか」と問われれば、専用の試作品もつくった。ところが、用途が無数にあるだけに、関心を持った人の声に合わせてすべて試作していると、収拾がつかなくなっていった。

「試作の状態では商品とはみなされません。『これ買えますか?』と聞かれて、その場で『すぐに売れます』と言えるかたちになっていなければ話が進まないことを痛感しました。そこで、今回テストも兼ねて、自分たちで「IBUKI」を開発し、販売することにしたんです」。と遠山氏。4年間かかった種まきの刈り取りが今、まさに始まろうとしている。

「IBUKI」の次は「いびき」?
バイタルセンサー技術で海外進出を目指す 将来の展望

170711_3現在、個人への販売を進めている睡眠センサー「IBUKI」だが、今後、保育施設や介護施設など、法人に向けた販売も予定している。法人向け睡眠センサーは4人同時に見られる仕様になっており、取り付けサービスなども含めた代理店販売となる。価格は、取り付けサービス込みで1セット5万円。乳幼児や高齢者の命を見守り、介護や保育の現場を支える人たちの負荷を軽減するシステムとして期待が寄せられている。

「実証実験に協力してくれた方々に話を聞くなかで、乳幼児の睡眠時の見守りをサポートするシステムが必要とされていることを改めて感じました。すでに、ある保育園から『発売前に先に使わせて欲しい』という要望が届いており、試作機を準備しているところです」

今、遠山氏は「IBUKI」に続く、次なる新製品の開発に取り組んでいる。そもそも、バイタルセンサー技術に出合ったのは熊田氏が中国に紹介できる日本の技術を探していたときだった。当然、「IBUKI」もアジア圏に向けて売り込んでいく計画だ。そして、中国の企業と話をするなか、新たなニーズに気付いたのが、いびきを止めるシステムだ。

「中国には、いびきに悩む人がとても多く、2億人もいるそうです。そうした人たちをそっと起こして、いびきを止めるシステムの開発を準備しています」

こちらは、バイタルセンサー技術を組み込んだモジュールでいびきを測定し、検知すると枕がふんわりとふくらんで起こしてくれる仕組み。今後、国内の呼吸専門の医師に協力をあおぎ、実際にいびきに悩む患者さんに使ってもらいながら、改良を進めていく。枕の部分はクライアントである中国企業が開発中。その会社とタッグを組み、年内の製品化を目指している。すでに、中国国内での引き合いが複数届いているそうだ。遠山氏が掘り起こしたバイタルセンサー技術が、大きく羽ばたこうとしている。

株式会社リキッド・デザイン・システムズ
代表者:遠山 直也 氏 設立:2008年6月
URL:http://liquiddesign.co.jp/ スタッフ数:5名
事業内容:ヘルスケア・ビューティ関連に特化したIoTソリューション、ライセンス、クラウド設計受託等

当記事の内容は 2017/07/11 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。