産業医が構想する未病促進の健康保持サービス。
チャットで健康相談できる「オンライン保健室」

IT・インターネット

執筆者: 松岡 佑季  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

多忙な社会人が気軽に健康相談ができる仕組み。
IT活用で予防専門の新たな病院機能を創出! 展開している事業の内容・特徴

20160920-1健康不安を感じていても、ビジネスパーソンが気軽に相談できる場はほとんどなく、多忙ゆえ病院に行く時間はなかなかつくれない。インターネットで検索をしても、自分にぴったりの健康情報が見つからない。そんな現代社会人の健康課題を解決してくれるサービスが登場した。それが、チャットで従業員が気軽に専門家に相談できる「carely(ケアリー)」だ。従業員自身はもちろんのこと、大切な従業員の健康管理が簡単にできると企業人事からも喜ばれている。

「carely」を運営しているのは、株式会社iCARE。同社代表の山田洋太氏は言う。「健康に不安を感じたときに誰かに相談しても、ほとんどの場合、病院に行ってみてはと言われるのではないでしょうか。しかし、予防医療を徹底できれば病気になるまで病院は不要なわけです。私はテクノロジーを活用して、病気になる前に予防できる専門の病院をつくりたかった。そんな理想のかたちを追求した結果、『carely』というサービスに行きつきました」。

「carely」の顧客は法人企業である。基本的な利用料金は、従業員1人当たり年間1800円。24時間受付のチャット健康相談「carelyチャット」、健康診断・ストレスチェックなどの健康情報を一元管理する「carelyクラウド」がセットで利用できる。前者は従業員が、後者は従業員の健康を管理する人事部などが実際に利用する。

「carely」では、筋肉痛やダイエットなど比較的ライトな健康相談も可能だ。徐々に専門家との間に信頼関係が醸成できるので、心の問題など重い相談もしやすくなるという。「carely」には健康に関する様々な専門家が集まっているため、基本的にすべての健康相談に対応してくれる。また、健康維持を実現するうえで、チャットであることの意味は大きい。簡単に指導後の経緯が報告できるため、繰り返しによる改善が進みやすいのだ。

健康相談ができるサービスは多数あり、大手企業を中心にEAP(従業員支援プログラム)が導入されているものの、実際の利用率は驚くほど低く1%程度ともといわれている。しかし「carely」は、チャットを利用して気軽に相談ができるため、利用率は平均で10%、利用率の高い企業の場合はなんと20%以上にもなるという。2016年3月にローンチしてからわずか5カ月で5000ユーザーが利用しており、契約数は今も右肩上がりで増え続けている。

現在、同社の正社員は、山田氏を含む経営陣3名と従業員4名の計7名。少数精鋭のメンバーが「carely」の運営を支えながら、未来に向けたサービス改善に日夜奮闘し続けている。顧客ターゲットとなるのは法人企業すべてであり、国内だけではなく、世界まで視野に入れると同社の市場は無限大といえるだろう。

離島の病院再建のために入学した大学院。
そこで産業医の現場と実態を知った ビジネスアイディア発想のきっかけ

20160920-2起業前、山田氏は医師として一般内科の現場で医療業務に従事していた。なぜ、医師である山田氏が「病院に行かずに済んだことが評価される世の中にしたい」と考え始めたのか――。その答えは、彼が産業医として働いていたときに聞いた、現場の「ブラックボックス」という言葉にあった。

山田氏は、金沢大学医学部を卒業し、2005年に勤務がハードなことで知られる沖縄県立中部病院で研修を開始。その後2008年、久米島で離島医療に従事する。そして、同病院の病院再建を担当したことをきっかけに、2年間医療現場から離れ、経営学を学ぶため慶応義塾大学大学院でMBAを取得することに。

「carely」のサービス誕生のきっかけとなったのは、大学院在学中に心療内科のアルバイトをしたときのことだった。1日70人ほどの患者の診察を担当したうち、20~30名が高血圧や糖尿病といった生活習慣病で、残る40名ほどがメンタル不全。しかも、その8割あまりが就業者だったのだ。「メンタル不全のまま働いている人の多さに驚きました。一定規模以上の企業は産業医を置いて、労働者の健康管理をすることが義務付けられています。産業医がなぜもっと機能しないのかという疑問がふくらんでいきました」。

山田氏は「働く人の健康管理という領域で何かやれることがあるはずだ」と考え、共同経営者の飯盛崇氏と2011年6月に iCAREを設立。そして2013年12月、「carely」の前身となる人事向けの健康クラウドサービス「Catchball」をスタートした。具体的にどんな事業をやるか議論した結果、改善すべきと定めたのが産業医として働いていたときに聞いた「ブラックボックス」という言葉だった。

「一般の医療には、第三者がチェックできる標準化されたシステムが導入されていますが、産業医が管轄する分野にはそれがない。何が行われているかがそもそもわからない、ブラックボックスなのです。だったら、それを“見える化”しようと、従業員の健康に関する情報をクラウド上で一元管理するサービスを開発することにしたのです」

その後、「Catchball」を世の中のニーズの変化と合わせて変化させながら、人事向けと従業員向けを統合した「carely」をローンチし、現在に至っている。コミュニケーションツールがどんどん進化したことで、電話ではなくチャットでの相談としたのもサービス改善のポイントである。また、山田氏は、大学院と並行して心療内科を学び、これまですでに2万名以上メンタル不全者とかかわっており、一般内科とともに現場での診療も継続中だ。

ITを活用したヘルスケアプラットフォーム。
病院いらずの世の中をつくっていきたい 将来の展望

「将来的には、大ヒット映画のキャラクターである、人の心と体を癒やす『ベイマックス』のようなヘルスケアプラットフォームとして、『carely』を育てていきたい」と山田氏は言う。

現在、何かしらの健康不安があった際にインターネットで検索をしても適切な病院も選択できないし、ましてやインターネット上の情報をもとに自ら課題解決することは難しい。だから、iCAREは、「carely」が「オンライン保健室」のような存在になることを目指している。

「そのためには、無機質な情報提供ではなく、人間味のある提案をしなくてはいけません。また、健康維持や予防のためにはリアルな場も必要です。例えば運動が必要であれば、提携したヨガやジムなど適切な場を案内できるようにしています。今後は従業員を増やし、より多くのビジネスパーソンに当社のサービスを届けていきたいですね。」

インタビューの最後に、山田氏はヘルスケアの未来についてこう語ってくれた。「『carely』がもっと浸透していけば健康を保つことができ、病気になることがなければ病院いらずの世の中になると思います」。

病気を未然に防ぐ予防医療のセーフティネットを社会インフラにすべく、iCAREを起業した山田氏。ビジネスパーソンが健康を保っていくために整えられたヘルスケアプラットフォームは、これからも広く普及していきそうだ。

株式会社iCARE
代表者:山田 洋太氏 設立:2011年6月
URL:https://www.icare.jpn.com 事業内容:
・働く人のオンライン保健室「carely」の提供
・健康診断、ストレスチェックのアウトソーシングサービスの提供
・企業の健康経営コンサルティング

当記事の内容は 2016/09/20 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。