競走馬のセカンドキャリア構築に挑む! 地熱と引退馬を活用した、地域循環型の有機農業「ジオファーム八幡平」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

銀座の屋上緑化にも採用された無臭プレミアム馬ふん堆肥。馬由来の資源と岩手山の伏流水と、地熱を活用したクリーン栽培による八幡平マッシュルームは、食通も認める美味さで高級食材として流通。
展開している事業の内容・特徴

151222-1エネルギー資源の乏しい日本。東日本大震災以降、自然エネルギーが注目を集めている。地熱発電もそのひとつだが、実は日本は世界第3位の「地熱資源国」といわれているにもかかわらず、開発が遅れている。今回紹介するのは、地熱資源の豊富な岩手県八幡平市で、地熱と馬ふん堆肥を活用した未利用資源の地域循環型有機農業に取り組む企業組合、通称「ジオファーム八幡平」だ。

そもそも八幡平市は、日本で初めて商業稼働した松川地熱発電所があり、その地熱の2次利用から別荘やリゾート施設として温泉付き住宅や高齢者向け施設が多く、現在も地熱発電建設プロジェクトが2カ所稼働している地域である。これらの調査を加速する為に、2014年には国から5億5000万円の出資も受けるほどの地熱資源地帯なのだ。

八幡平市の地熱有効活用事業が本格化したことを受け、「ジオファーム・八幡平」の代表である船橋慶延氏は、地元の温泉施設経営者や有志らと協力して2014年9月に企業組合を立ち上げた。八幡平南温泉「旭日之湯」という温泉施設に隣接した地熱活用型堆肥舎で馬ふん堆肥を生産し、これを使った有機農業の普及を目指している。現在放牧されている馬は全部で13頭。船橋氏の呼びかけで、引退した競走馬や高齢になった商業馬などを引きとっている。放牧地は休耕田だった場所を改良した。

周囲には昔から牧野が広がっており、ジオファームにいる馬のエサも地産地消。馬は完全に草食で、排泄される馬ふんも草の繊維が豊富。そのため発酵が進む過程で70度から80度という高温になり、堆肥特有の臭いが少ないというのも特徴で、完熟後はほぼ無臭になる。今回取材に訪れたのは12月で、気温が低かったということもあるが、間近で見た発酵過程の堆肥はそれなりの臭いを放つものの、さほど嫌な臭いではなかった。

馬ふんを堆肥にするためには、微生物を活発にさせ、悪性の雑菌を死滅させる必要がある。発酵期間中3回ほど混ぜるが、屋外に、屋根だけがついた施設で管理されているため、特に冬場は混ぜるだけで馬ふん中の温度も下がってしまう。この温度を下げないために、地熱が活用されているというわけだ。

悪臭がないことに加えて、軽量であるという特徴も持つジオファームの「THEプレミアム馬ふん堆肥」だが、この馬ふん堆肥を使うと野菜や花の出来栄えがよいという評判もあり、2013年には銀座の商業施設が屋上緑化の土づくりに採用。もともと八幡平市の人々は、園芸、農業に馬ふん堆肥を使う効果を理解しており、地元のホームセンターでも販売されているほど。最近は、馬ふん堆肥の評判を聞きつけ、遠方から買いに来る人も多いという。ジオファームは初年度で約300トンの馬ふん堆肥を製造し、200トンを販売した。

151222-4この馬ふん堆肥を直接的に活用し、自分たちも農業が出来ないかと数年前より模索していた船橋氏。その第1号が「八幡平マッシュルーム」だ。2015年2月から試験出荷され、徐々に生産量をあげてきた。きめ細かな肌に大きく肉厚なこのマッシュルームは現在岩手県内外に流通している。一パック(100g)260円程度だが食通の間でも評判で、現在は首都圏の高級スーパーも仕入れている。

冬場は-10 度まで下がる八幡平だが、「八幡平マッシュルーム」は4棟のハウスで通年栽培されている。隣接する温泉から熱交換器を通して熱が取り出され、その熱により温められた温水が、このハウスに運ばれて室温を一定に保つからだ。一般的な温室ハウスと比較して、石油や電気の使用量が減り、二酸化炭素の排出量が削減できるというメリットもある。

もともとマッシュルームは稲わら、麦わらをベースとした馬厩肥に自然発生していたきのこなので、培地には馬の堆肥が適している。一見、ジオファームにはマッシュルーム栽培にまたとない環境が揃っていると思われたが、実は、マッシュルーム栽培には海外から輸入した馬ふん堆肥をベースとした菌床培地が使われている。というのも、現在ジオファームで管理されている13頭という馬の頭数では、馬ふんそのものが足りない。また、馬が休む馬房には、稲わら・麦わらではなくおがくずを敷いているため、マッシュルームの培地には適さない。現時点でジオファームの馬ふんが活用されているのは「THEプレミアム馬ふん堆肥」だけなのだ。

培地の輸入先はマッシュルーム栽培の先進地域であるオランダやベルギー。これらの国から培地を導入することで、良質なマッシュルームが生産可能になるのだが、海外から生産資材を輸入するということは、非常にコスト高でもある。この課題を解決するため、栽培培地の生産を一から勉強し直すとともに、競走馬の馬ふんを譲ってもらうなど各方面に働きかけているところだ。幸いにも岩手県は全国で唯一、競馬場が2カ所ある。反応は上々で、そう遠くないうちに協力体制が築けるかもしれない。

東日本大震災を機に八幡平に家族で移住。馬ふん堆肥を普及させることで、引退馬のセカンドキャリアの選択肢を広げたいと有志で起業。
ビジネスアイディア発想のきっかけ

151222-3企業組合八幡平地熱活用プロジェクトは2014年9月に設立された。代表の船橋氏は大阪生まれの33歳。競走馬などの育成が本職で、いわゆる「乗り役」でもある。

幼少期に観光先で馬と触れ合ったことを機に興味を持ち、乗馬クラブに通う。高校生になると馬術の大会で好成績を修めるようになり、ますますひきこまれた。その後も馬への情熱は冷めやらず、進学した大学を1年で中退し、本格的に馬を育成する職に就くため専門学校に進んだ。その後、乗馬クラブの職員を経て、北海道で競走馬の育成に携わりながら、自身も馬術のスキルを磨いていた。

八幡平には知人の牧場があったため過去に何度か訪れていたが、東日本大震災を機に、馬を通じてできることをしたいという気持ちに背中を押され、2012年に家族と共に北海道から移り住んだ。理学療法士の資格を持ち、ホースセラピーにもかかわっていた妻の存在も大きかった。

八幡平には馬の牧場があるほか、観光用の商業馬も多い。自分にできる仕事もあると目途をつけた船橋氏は、移住して間もなく、北海道で自身が所有していた馬や、知り合いから引き受けた6頭の馬を八幡平に呼び寄せた。

船橋氏によると、競走馬は年間で7000頭ほど生まれるため、レースで活躍できるのは一握り。引退する競走馬の行く末は殺処分か食用がほとんどだが、人気のある馬は引退後もファンがわざわざ牧場を訪ねてくるため、観光的価値ももたらす。

「岩手の競馬場で活躍した馬や、日本中の競走馬たちが引退したら、八幡平にくるのが理想です。ファンが訪れることも期待できますし、隣には温泉もあるのでゆっくりできます。温泉は馬の治癒にも役立ちます」とは船橋氏の談。

一般的に馬の寿命は20歳から30歳だが、ジオファームの牧場には25歳と高齢ながら元気に動く馬もいた。船橋氏らの取り組みにより、引退後の馬の選択肢が増えたことは確かだ。

需要の高まる馬ふん堆肥の安定供給を目指しつつ、マッシュルーム以外の農業導入実績を増やしていく。
将来の展望

船橋氏に、ジオファーム八幡平の今後の展望について伺った。

「八幡平だけでなく岩手は、源平の時代から名だたる名馬を産出してきた南部馬*の産地ですし、馬と共に暮らしてきた歴史があります。実は、40年前ほどにマッシュルームを栽培し、アメリカに輸出していた時代もあるそうです。私たちは、まず馬ふん堆肥の品質をアピールし、安定供給に努めたい。将来的には馬ふん堆肥を使った有機野菜を普及させたいです。今のところ量産しているのはマッシュルームだけですが、ピーマンなどほかの野菜の肥料としても実験中です。この地の高齢の農家さんは、昔は馬と共に生活されていた方も多く、その皆さんが、馬ふん堆肥が一番良いんだ、と口をそろえておっしゃいます。」

現代においても、馬ふん堆肥がさまざまな野菜栽培に適していることが実績としてわかれば、需要が増え、ジオファームで育てる馬も増えていくはずだ。この循環が、馬と人とが、共存・共栄できる持続可能な仕組みになるであろう。船橋氏はもうひとつ、面白いアイデアを教えてくれた。

「東京オリンピックの馬術競技に出場するような馬を育て、そして自分で出場するのが目標なのです。また、選手村にジオファームの馬ふん堆肥を使ったオーガニック野菜を提供したり、馬術の競技会場に花壇を並べて華やかにするなど、いろんなアイデアを温めています」

船橋氏の「生涯・馬乗り!」としてのチャレンジも応援していきたい。

※旧南部藩(現在の岩手県)産の在来馬の一種だが絶滅。乗馬に適しているとされた。

〈事務局〉

企業組合八幡平地熱活用プロジェクト
代表者:船橋 慶延氏 設立:2014年9月30日
URL:http://geo-farm.com/ スタッフ数:8名  パート従業員:16名
事業内容:
・地熱有効活用事業

当記事の内容は 2015/12/22 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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