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適切な人材を派遣する「人材活用事業」経験が起業の糧に
現在、ワーキングマザーの総合支援サービス会社、株式会社マザーネットを経営する上田理恵子さんは、自らも2児の母親。
たくさんのワーキングマザーからの悲鳴に近い声に危機感を覚え、「このまま放ってはおけない」と思ったのが起業の理由だ。
上田さんは、大学を卒業後、大手空調メーカーに入社。
研究室勤務を経て、新規事業開発室に異動となる。
ここでの仕事は、技術を持った役職定年者を中小企業に派遣する人材活用事業。
今までは研究一筋だったが、もともと人と接する仕事に興味があったので、すぐに新しい業務にのめり込んでいった。
「単に技術だけをマッチングさせて派遣するのではなく、経営者と夢を共有できる人材を探すよう努力しました。技術者の生き方や思考を理解して『適切な人材を派遣する大切さ』を学んだのです。今思えば、これが起業の勉強になったのでしょう」
上田さんは中小企業経営者たちとの親睦を深め、自社の海外工場見学会や登山グループの発足など、新たな試みを次々と実施。取引先の支持を集め、仕事の楽しさを知っていった。
自らの体験で、働く女性の出産・育児の厳しい現実を知る

しかし、子供ができた喜びもつかの間、子供を公立の保育園に入れたいと市の保育管理課を訪ねると、翌春からの入園なら7月までに出産するのが当然と言われ、愕然とする。
「働く女性にとって出産はこんなに大変なのかと驚きました。
二男の時は、言われたとおり7月に出産しましたが、今度は育児休暇を取ると2歳の長男が退所しなければならず、4月から二男と同じ保育園には入れないと言われたんです。市の窓口に何度も通って復帰直前にやっと入園を認めてもらいました」
「キャリアと家庭」。両立を目指す会をたった一人で発足
「私自身も大切な契約があり、高熱を出した子供の手を引いて客先へ出向いたこともありました。
自分で子どもを持って初めて、今の社会がワーキングマザーに働きにくい環境であることを痛感しました。
急な残業や病気の時に子供を預けられるところはないし、保育園に入園させるために、
子供を産む時期までコントロール しなければならないなんて、やっぱりおかしいでしょう?」
苦労しているのは決して自分だけではないと実感した上田さんは、ワーキングマザーが悩みを打ち明けたり、情報収集できる組織をつくろうと決意。
94年に「キャリアと家庭」両立を目指す会をたった一人で発足した。
こうして、会社勤務と育児、会の運営を手がけるスーパーウーマンになったのである。
新聞にこの会が取り上げられると、翌日から自宅の電話が鳴り続け、ワーキングマザーの悲痛な相談が後を絶たなかった。今まで孤立していた彼女たちは、つらい状況を訴え、電話口で泣き出す人も少なくなかった。
99年には月刊誌を発行。「子育ての悩み」など毎月アンケートを取り、結果を誌上で公表し情報提供を続けた。
「そんなある時、会社で会議が長引いて保育園の送迎時間になってしまい、仕方なく退席を申し出たんです。
すると『だったら袋に入れて入口に吊っといてもらえ』 と怒られて。
ひどい話ですけど、これが現実の社会。
『誰かがこの社会を変えなければ』と立ち上がる決意をしたんです」
子供だけでなくお母さんのケアにも重点を置いた「ケアリスト」を派遣
上田さんが起業を決意したのは、働くお母さんに代わって子供の面倒や家事を行う、シッター派遣中心のワーキングマザー総合支援サービス会社。
ワーキングマザーが仕事と家事、子育てを両立していく上での問題点を解決するサービスを提供していくことを目指した。
「病児のケア」や「緊急性にも応じる」シッター派遣など、リスクが高く、今までどこの企業、行政も扱っていないジャンルにあえて挑戦した。
株式会社設立のための資金は、退職金と貯金で充当。
資金の一部は、ベンチャーキャピタルから出資を受けた。
こ うして2001年 8月、17年間勤務した会社を辞め、株式会社マザーネットを設立。
共働き家庭での子供のケアに加え、お母さんのケアにも重点を置くため、シッターではなく 「ケアリスト」という独自の名称を用いた。
ケアリストの質がサービスの質となるので、研修には力を入れているという。
料理教室やスケッチ教室など、感性を 高めるための講座も積極的に開催している。
「継続的に利用してもらえれば、ケアリストと子供のコ ミュニケーションが取れているので、病気の時や急な残業でも安心して預けてもらえるのです。
そのうえ、材料費さえいただけばご家族の夕食の支度もする、ま さにワーキングマザーの強い味方です。
うれしいことに、料理の味もいいと評判なんですよ」
小学校の長期休暇には、信州でサマースクールを開催したり、最近では、大掃除サービスも始めた。
現在、会員数は 500名、ケアリストは 150名を超える。
「本当は、私たちのような会社がいらない社会になることが一番いいのでしょう。
でも必要とされている今は、一人でも多くの働くお母さんの力になることが私の使命だと思っています」
【上田 理恵子さん プロフィール】
鳥取県生まれ。
84年に大阪市立大学生活科学部を卒業後、空調メーカーに入社。
汎用空調設計部で業務用食器洗い機の洗剤開発から機械設計までを担当する。
86年に大学時代から付き合っていたご主人と結婚。
87年、本社・新規事業開発室に異動となり、新規事業に携わる。
92年11月、第1子を出産。
94 年7月に第2子を出産。いずれも育児休暇を申請し、働きながら出産した。
2004年11月からは女性のための起業講座も開講。起業支援事業にも取り組む。
| 会社名 | 株式会社マザーネット | |
| 住所 | 大阪市淀川区西中島6-2-3 チサン第7ビル 608号 | |
| 連絡先 | TEL 06-6889-2118 | |
| URL | http://www.carifami.com | |
| 設立 | 2001年8月 | |
| 業務内容 | 家事・育児代行サービス |

