開催日:2007年3月11日 会場:東京・赤坂プリンスホテル
日本の食の自給率は、なんと40%にも落ち込んでしまった。海外からは容易に、そして大量に食品が流れこみ、日本の各農地では深刻な後継者不足が叫ばれている。
なぜ、このような事態になってしまったのか、どうすればこの事態を打破できるのか、異なる事業を展開しながら、「食」のキーワードで結ばれた5人の経営者が、熱い議論を戦わせた。
生産者の思い、消費者の評価を、相互に伝えることで農業を活性化
出雲:1961年には約8割だった日本の食の自給率が、40年ちょっとで半分にまで落ち込んでしまいました。食卓にも外国産のものが多く並び、どう 作られたかもわからないものを食している状態です。「食品クライシス」は安全面でも、輸入に頼りすぎているという点でも当てはまると思うのですが。 高島:私は生産者と直接取引をすることが多いですが、農家の人は自分が作った野菜がどのように評価されているかって、知る術がないんです。なので、 ITを使って消費者の生の声を生産者に伝えてあげる。そうすると、それを受けて「もっとおいしいものを作ろう」って改めて奮起するみたいですね。どんなに いいものを作っても、キロ当たり一律の値段をつけられてしまうという仕組みが、農家をビジネスとして社会的に向上させられなかった1つの要因ではないで しょうか。 萩原:築地では、良いものはちゃんと高いです。高島さんが言うように「評価が大事」という意味では、市場が目利きとして品物の質を判断するいいポジ ションにあります。昔は八百屋や魚屋が消費者の近くにたくさんあって、彼らが品物の質を判断して仕入れていました。それを買った消費者が「この間のトマト おいしかったよ」と、また八百屋や魚屋に評価を伝えることで、それが卸業者に伝わり、生産者に伝わったんです。最近ではスーパーができて、この流れが断絶 してしまいましたから、私達が八百屋や魚屋の役割を担うべく努力しているところです。 消費者の声を生産者に届けたり、消費者の評価を価格に反映させることが、農家の社会的地位を向上させるのに有効であるということだ。しかし、逆に生産者の取り組みを消費者に伝える活動も大切だという。 出雲:日疋さんは、なぜ串一本単位のトレーサビリティを実現しようと思ったのですか? 日疋:私は生産者だけでなく、それを運ぶトラックの運転手、肉を串に刺していく人、それぞれどんな人が、どんな思いでやっているかを伝えたいと思ったんです。それで一生懸命サイトに書いたりしていますが、消費者はなかなか読まないですね(笑)。
丸:私は中・高生やその親に、実際に農地へ行って農作物の苗を植えてもらい、その後、サイト上で農家の人と農薬の量などを相談しながら、遠隔栽培が できるサービスを行っています。そうすると、消費者にも生産者の苦労や頑張り、思いが伝わるんですね。そういうことも大切なんじゃないかな。 農業のスタープレイヤーを輩出することで、生産者の地位向上を図るここで、自給率を上げる必要性について、改めて丸氏から疑問が出た。海外のものが容易に輸入でき、何不自由ない現状で、自給率の向上は本当に必要なのだろうか? 高島:今、農家の平均年齢って60歳くらいなんですよ。単純に、10年後に農業の現場がどうなってしまうのかというあせりがありますよね。日本でも スキルが高い農家の作物は、海外のものなんかよりずっとおいしい。これが今後若い人につながらないという危機感もある。でも、比較的裕福な農家には跡継ぎ がちゃんといるわけですから、やっぱり社会的、経済的評価が農業に必要ということなんだと思います。 萩原:農作物を育てる仕事って、1年に1度しか行えない作業もたくさんある。だから技術の習得に時間がかかるんです。自給率がさらに深刻な数値まで 低下してから、じゃあ新しく農業を始めようと取り組んでも、そこからきちんと育成し、機能するようになるまでには数年かかる。これは人の育成だけじゃな く、土壌の育成にもです。 では、どうしたら生産人口が増やせるのか。 高島:フランスなんかでは、農家の人が皆カッコイイんです。上場したりするところもあって、社会的地位も高い。日本もそんなシンボリックな農家が出てくるべきです。 出雲:教育現場として農家に若者を連れて行く活動をしている丸さんから見ても、農家はカッコよくないですか? 丸:カッコよくないというか、カッコよさが表面に出てこないですよね。私が若者を農業の現場に連れて行くのは、実際に現場を見て、若者が自発的に農業をやってみようと思う風土を確立したいからなんです。それには確かに影響を与えられるシンボリックな農家が必要。
萩原:全国には豪邸に住んでいる農家も結構いるんですよ。彼らは野球でいうイチローを目指していて、「世界に通用する野菜を」と頑張っています。で も、日本の農政は頑張っていない農家に足並みを揃えようとしている。だからいつまでも農家の社会的地位は向上しない。そこで私達がインターネットを使って スタープレイヤーの存在を全国に広め、それに続く農家を輩出すべきなんです。 高島:うちが取引している農家の中に「カリスマ農家」っているんですよ。「○○さんの作った野菜じゃなきゃ嫌だ!」という声がたくさん出ている。そ ういったカリスマ農家を増やすために、私達は「このキュウリはこんな風に作りました」とか、「このトマトはこういう風に食べるとおいしいですよ」というよ うな生産者の声をできるだけ届けるようにしています。それが伝わることで、消費者は生産者の思いを受け、集中して食べるようになる。すると、よりその野菜 のことが印象に残り、野菜に価値が出るわけです。 萩原:その野菜にバリューがつけば、消費者は高いお金も払ってくれます。そのバリューが、こだわって苦労して作ってきた生産過程なのか、「ここでし かとれない」というような希少性なのか、「あの有名人も御用達」というセンスなのか、どれに訴えてもいいんです。なぜその値段になったのかを正しく伝える 役割がいないと、いつまでも価格競争が続いてしまいますよね。 出雲:野菜の話が続いていますが、豚肉の場合はいかがですか? 日疋:皆さんは日本全体を相手にされていますが、うちは埼玉のみがターゲットなんです。黒豚というと鹿児島が有名ですが、実は埼玉も養豚が盛んでし た。なぜ埼玉の黒豚が残ったかというと、地元の人に愛されてきたからですね。前に目隠しテストで、鹿児島産の黒豚とうちの黒豚を食べ比べてもらったら、不 思議と関東出身の人はうちの黒豚の方がおいしいと言ってくれました。子供の頃から慣れ親しんだ味ってあるんです。それで埼玉の黒豚を見直してもらえた。野 菜も肉も同じで、味の違いをきちんとわかってもらうことが大切です。 丸:でも味の違いは目に見えないから難しいところがありますよね。あるスーパーでは、生産地から店までの距離を表示していて、距離が長いほどCO2 をたくさん排出しているんですよということを数値で表しているんです。その土地で獲れたものを食べようと、環境に訴えているわけですね。これも1つの方法 だと思いました。 おいしく楽しく、食育をエンターテインメントにこれまでの話を踏まえ、テーマは「食育」に。
高島:オイシックスのサイトでは、農薬だとか防腐剤だとか、あまり恐い話はしていません。お客様が「おいしい」「満足」「また買いたい」と思ってく れればいいんです。考えや知識を押し付けるのではなく、お客さんが食生活をより楽しく感じることで、食に対する認識を高めてくれれば、というのが僕の立ち 位置です。 出雲:教育という観点で、たくさんの若者を農地に連れて行く方法、おいしく楽しく食の魅力を伝える方法、食育には色々なアプローチの仕方があるんですね。 萩原:食べ物は理屈ではなく、おいしく楽しければいい。あまり「教育」を強調してしまうより、食をエンターテインメントとして捕らえられるようにな ればいいんです。食べ物を楽しむカルチャーがあれば、いい加減な食事はよくないなと思うようになるし、それがないと、「コンビニ弁当でいいや」になってし まう。 出雲:どのようにエンターテインメント性を求めているのですか? 萩原:私のサイトでは、出産の内祝や、父の日、母の日などの贈答品としてのご利用が多いんです。有名な百貨店の包装紙でくるまれたものより、手書き のメッセージ付きで、驚くようなものが入っている方が喜ばれることもあるでしょう。そういったお客様の食に関する日々の驚きや喜びを演出するお手伝いをし ているというのが実態ですね。 出雲:日疋さんは、「埼玉といえば黒豚」というイメージをどのように発信しようと思っていますか? ロジカルに? それともエンターテインメント性を活かして?
日疋:先日、米国大使館の隣に「黒豚劇場」という店を出したんですが、そこでは黒豚のみならず、ビールや日本酒、そしてできる限りの食材を埼玉産の もので揃えています。それらをおいしく食してもらいつつ、秩父のライン下りのことや川越祭など、あちらこちらに情報を提示して、埼玉に興味を持ってもらう 仕掛けも作っています。それで最後に「おいしかった黒豚が埼玉産なんだ」というところに集約してもらえればいいなと。 丸:確かに、食べることとエンターテインメントは表裏一体で、僕も、農地で実際の農業を体験しながら知識を高めてもらうという取り組みをしていま す。そして、最終的には正しい知識を得てもらうということが大切ですよね。正しい情報が得られれば、消費者は食を含めたライフスタイルをもっと選択できる ようになる。 出雲:確かに「正しい情報を伝える」という点では、教育でもトレーサビリティでも、ITを使って楽しく消費者に伝えるということでも共通していますね。 「衣食住」のど真ん中に位置する「食」。当然ながら「食」は生きる上で大切な行為であり、また、本来充分に楽しめる行為であるはずだ。「食」にエン ターテインメント性をからめることで、おいしく、楽しく、消費者に「食」の大切さを訴える。そして食べ物の価値を向上させ、さらには農家の地位を向上さ せ、スタープレイヤーを生み出すことで、農家を憧れの職業にできれば、自給率はおのずと上がっていくはずだ。 今回参加した5名のパネリストは、今後もそれぞれの場所、それぞれの方法で、それに取り組んでいくに違いない。 |
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オイシックス株式会社 |
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株式会社食文化 |
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株式会社ひびき |
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株式会社リバネス |
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コーディネーター |
ゲスト審査員
Wikipedia創始者/Wikia.Inc. Chair ジミー・ウェールズ氏
グローバル カタリスト パートナーズ工学博士
マネージング・プリンシパル 兼 共同創設者 大澤弘治氏
(株)サキコーポレーション 代表取締役社長 秋山咲恵氏
(株)サンブリッジ 代表取締役会長兼 グループCEO アレン マイナー氏
GMOインターネット(株) 代表取締役会長兼社長 熊谷正寿氏
タリーズコーヒージャパン(株) 代表取締役社長兼 チーフバリスタ 松田公太氏
(株)ホリプロ 代表取締役副会長 堀 一貴氏
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