医師目線での高品質な評価情報を提供。
医療費削減の期待を背負う注目ベンチャー

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 本多 小百合  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

医療従事者目線で適切な情報を提供し、
第三者の立場で名医との出会いをサポート

展開している事業の内容・特徴

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名医に診てほしい――。深刻な病を抱える人、患者の回復を願う家族にとっては共通する思いだろう。しかし、医療が高度化・細分化する現代、患者側が適切な名医を探し当てるのは決して簡単ではない。もしも、医療に詳しい人が名医を紹介してくれたら。

そんなニーズを汲んで名医紹介サービスを実現したのが、元眼科医の代表・杉田玲夢氏が率いる株式会社クリンタルだ。同社のWEBサイトでは、独自の基準で厳選された約3万8000人の名医を紹介。「○○がん」「○○症」などの疾患名から医師の情報が検索でき、誰でも簡単に自分に合った名医を見つけることができるのだ。情報は無料で閲覧できるが、掲載されていない特別な疾患や個別の事情に合わせて名医を紹介する有料サービス(1回6480円〜)も用意されている。

患者が医師を探す手段は、他にも口コミサイトやランキング本などがあるが、クリンタルがそれらと違うのは、医療従事者のフィルターを通して紹介する医師を評価している点だ。

「患者の口コミは待ち時間の長短など、サービスに偏りがちです。それも、自分個人がかかった特定の病院の評価に過ぎません。一方、ランキング本は複数の病院を横断的に評価しますが、公平性に欠ける場合があります。我々の場合、調査をするスタッフは全員、医師・看護師等の医療従事者で、評価の際も明確な独自の認定基準に基づいて公平に評価します」

現在、とりあげている約130の疾患は、患者数の多いある意味メジャーな病気と、医師によって治療の質が大きく異なる病気だ。インフルエンザのようなありふれた病気は誰が診ても治療方法に大きな差はないが、珍しい病気や原因の突き止めにくい症状などの難しい病気は、医師の経験値によって見立てが変わり、それに伴って治療期間や誤診率、再発率が大きく変わってくる。

「たとえば、外科ならある程度の手術数を経験していることが名医の条件かもしれませんが、精神科では何百人の患者さんを診た経験よりも、他の資質のほうが重要とされるケースがあります。そこで、診断科目ごとに名医の基準を定め、臨床実績、学術活動、受診しやすさの3つの視点から総合評価しています」

どんな先生を名医と呼ぶか。この名医の認定基準づくりには各科の専門医が集まり、半年以上かけて議論を交わして決定したのだという。本気で名医を探す人にとっては、こうした医療従事者による裏付けに価値があるのだ。

近い将来、日本にも医師を選ぶ時代は来る!
留学経験や会社勤務で知った社会的ニーズ

ビジネスアイディア発想のきっかけ

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クリンタルが評価した医師の情報は、サイトを通じて一般に公開されているが、現在、同社ではこの情報を利用したアプリの運用も始めている。健康保険組合や生命保険会社などの一部事業者に向けに提供する同アプリでは、サイト同様に名医を紹介するほか、専門スタッフによる健康相談チャットも利用可能となっている。

杉田氏は元々、ビジネスに関心があったという。医学生だった頃、大学で開かれた就活セミナーに参加し、医学部で学んだ知識が病院以外でも役立てられることを知った。研修医、勤務医として現場を経験した後は、コンサルティング会社へ就職。病院や製薬会社の経営改善、国のがん検診の受診率向上プロジェクトなどにも関わり、ビジネスや社会の現状について学んだ。

各科の名医情報を蓄積し、分かりやすく情報公開をするサービスは、まさにそうしたキャリアが生かされるビジネスだった。

杉田氏が本事業のヒントを得たのは、アメリカ留学時代。国民皆保険制度で、どこの病院でも低額の治療費で受診できる日本とは違い、アメリカでは患者側もコストパフォーマンスを考えて、真剣に医師を選ぶ。そこで、企業の福利厚生として名医を紹介するスタートアップが誕生した。名医に診てもらうのは従業員だが、利用料は企業が支払う。従業員が医者にかかる時間はなるべく少なく、医療費はできる限り低いほうが企業にとっても望ましいからだ。

日本でも、厚労省の調査によれば、同じ病気でも入院日数が数日から数ヶ月とバラつきが大きいことが分かっていた。日本の保険会社にも、加入者に名医を受診してもらいたいという思いはある。入院日数が減れば、入院給付金のコストが下がるためだ。

「実際、アメリカのそのサービスは医療費を10%削減したという実績を出していて、これは我が国でもあり得ると思いました。ちょうど日本でも病院の情報公開が進み、医者や病院側に、“患者から選ばれる”意識が生まれつつあった時期です」

常日頃「良い先生を教えて」「おすすめの病院は?」との相談を、周囲から受けていたこともあり、プロが薦める名医のデータベース、言うなれば、ミシュランガイドの医師版をつくるイメージを固めていったのだ。

医療費削減効果を可視化させながら、
医師を選ぶ習慣を浸透、医療の質向上も

将来の展望

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設立から2年。名医紹介サービスを通じて、自分では見つけられなかった名医と出会ったという人も出てきた。しかし、医師や病院を能動的に選ぶ習慣が根付くまでの道のりはまだ長いという。

「まずはアプリを導入していただいた生命保険会社と、医療費削減の実績をつくっていきたいと考えています。1年間サービスを利用して、これだけ医療費が減ったという数字が示せれば、社会的に与える影響も大きいでしょう」

その結果、弾みがついて「名医を選ぶ」という行動が徐々に広まっていけば、医療費の削減に加え、医療業界全体の質向上にもつながっていくはずだと杉田氏は考えている。

「専門の症例を数多く診て、経験を積んでいくことで、治療の質は上がっていきます。ところが、現状では、クリニックでも対応できるような高血圧の方が、心筋梗塞の名医にかかるというようなケースが起きています。深刻な病気でお悩みの方には専門の名医を、安心して通える近くの病院をお探しの方には町の名医を紹介することで、すべての人がより適切な医療を受けられるようになるのです」

クリンタルという社名の由来は、クリニック(町の名医)で診断を受けた後、どのホスピタル(有数の名医)で治療を受けようかという時に使ってもらうサービスとの意味合いからだという。

今後、社会的インパクトが狙えるレベルまで、サービスを拡大していくには、マッチングの効率化も欠かせない。現在3名で担当する健康相談チャットでは、試験的にチャットボットの活用も始めている。名医紹介サービスも、自動化を検討中だ。

「自動化できるところは自動化していきますが、医療情報ですのでミスは許されません。精度と効率のバランスを慎重に見極めながら進めていきます」

ビジネスとして成立させながら、医療者としての矜持は決して忘れない。元医師の起業家は、強い意志をもって、医療業界の変革に取り組んでいる。

株式会社クリンタル
代表者:杉田 玲夢 氏 設立:2015年5月
URL:https://clintal.com/ スタッフ数:10名
事業内容:
事業内容:医療関連情報提供サービス

当記事の内容は 2017/11/14 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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