若きデザイナーが立ち上げたモノづくりベンチャー。 消費電力の“見える化”に挑む「Sassor(サッソー)」

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執筆者: ドリームゲート事務局

コンセントにつなぐだけで消費電力を“見える化”。手軽に使える電力削減ツールに注目が集まる
展開している事業内容・特徴

sassor1家庭や店舗やオフィスなど、電気を利用する場所に毎月送られてくる電気使用料の請求書。それを見れば電気を1カ月間にどのくらい使ったかある程度わかるが、どの電化製品が、どの時間帯に、どれくらいの量の電気を使ったか特定することはできない。仮に、冷蔵庫はどれくらい、エアコンはどれくらいの電力を使ったのかわかったとすれば、電気代を効率よく削減できるのではないか――。

今回ご紹介するのは、そんな考えから生まれたサービ「Sassor(サッソー)」。ELP (Energy Literacy Platform) という、家庭、店舗、オフィスの電気がどれくらい消費されているのかをリアルタイムで知ることができるツールだ。計測器は2種類。一般家庭用には電化製品とコンセントの間に挟むタイプの計測器。一方、店舗などの商用では分電盤に設置するタイプの計測器で個々の電化製品の消費電力を計測してくれる。どちらにも無線が備わっており、計測したデータをルータに飛ばし、サーバを経由してWebサイトにデータをバックアップ。ユーザーは、専用のサイトにログインするだけで、数秒おきの電力使用状況を確認・管理することができるのだ。

「Sassor」を利用する飲食店にとっては、電力使用状況の“見える化”以上の効果も。例えばチェーン店で、同規模、同月商の店舗でも、双方の電気料金が異なるケースがある。店舗ごとのオペレーションの差が、電気料金の高低を生じさせているというわけだ。

店舗の節電をマネジメントするのは、ほとんどのチェーン店の場合、いわゆる「本部」である。しかし、本部は現場の状況をじかに見ているわけではないため、本部と店舗の間に認識のずれが生じてしまう。しかし、「Sassor」のような数値化されたデータがあれば、それが店舗側への説得力となり、コミュニケーションも円滑に進みやすくなる。ちなみに、このケースは、「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」の「Sassor」導入後の事例だ。「Soup Stock Tokyo」では、「Sassor」のデータを参考にして、オペレーションマニュアルも作成している。

スープストックからの依頼で気づく!小さなテナント単位でも取り組め平均10%の電気使用料を軽減
ビジネスアイデア発想のきっかけ

sassor2 株式会社Sassorの代表を務めるのは石橋秀一氏。武蔵野美術大学卒業後は、広告デザインの仕事を手がけていたが、モノを売るためのデザインよりも、モノづくりそのものをしたくなり、起業を志した。その後、慶応義塾大学SFCの大学院に進み、経営、起業について学ぶ。大学院で、後の共同経営者となる宮内隆行氏と出会う。

SFCで学ぶうちに、物理空間とインターネットを組み合わせて、何らかの価値を生み出せないかと考え始めた。その時、ふと目に留まったのが、電気使用料の請求書。これでは、どこにどれだけ電気が消費されているかはわからないので、電気使用料の削減も検討できない。消費電力の“見える化”というキーワードが、石橋氏の頭のなかに生まれた。

 ちょうどその頃、『E-Idea コンペティション』(イギリスの国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシル主催)に、今のELPの原型となるアイデアを応募。その結果、みごと2位に入選し、さらに、起業家支援の『オープンネットワークラボ』の審査も通過した。

 早速起業することになり、大学院を自主退学。ベンチャーキャピタルからの出資を受け、宮内氏とともに事業をスタートさせた。あのサムライインキュベートの榊原氏からの出資も受けている。

事業開始後、さまざまな課題が現れた。たとえばマネタイズや販促だ。モノ自体をつくるのは得意でも売るとなると話が違う。どこに売りにいけばいいかのさえ、わからない状態だったという。

また、電化製品をつくるために必要な、PSE(電気用品安全法)の取得も苦労したことの一つ。この規格をとるために、数百万円の費用と半年程度の時間がかかった。何とか認可済みの部品を組み合わせて製造することでクリアしたという。

生産段階でも手痛い失敗があった。中国の会社に依頼した基盤30個のうち、25個が不良品だったこと。あまりにも酷く、絶句したという。コストが安くてもこんな不良率ではビジネスにならない……。その後、半田ゴテを使って、自分たちで不良箇所を修理したそうだ。

sassor3そして、ようやく製品が完成。資金の関係で100個限定だったが、震災直後ということもあり、ネット上で売り出したところ1カ月で完売。しかし家庭向けに製品を大量に製造して売るのは時間も資金もかかり、事業の拡大スピードが鈍いのだ。

そんな時、「Soup Stock Tokyo」から問合せが届き、B2B向けのニーズに気づいた。また、例えば、さまざまなビルにテナント単位で入居している企業の場合。「Sassor」を使えば、どの時間にどこでどのくらいの電気が消費されているかがわかる。そのため、人のいない時間帯は電気をこまめに落とすなどして電力削減ができるのだ。

ちなみに、「Sassor」を利用すれば、電気使用料が1カ月数十万円かかる飲食店の場合、平均して10%程度の削減ができるそうだ。この問い合わせをきっかけに、同社は今、ビジネスモデルをB2B向けにピボット(転換)している最中だ。

 3・11の東日本大震災後、節電意識が高まったことも追い風となった。メディアでも取り上げられる機会が急増し、また、最近、『ロングテール』『フリー』の著者として有名なクリス・アンダーソン氏の著書『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』で、ベンチャーのモノづくりが注目され始めている。株式会社Sassorは、まさに時流にのったベンチャーといえるだろう。

モノとインターネットをつなぐサービス
将来への展望

石橋氏に将来の展望を伺うと、「まずは2013年中にB2B向けサービスを軌道に乗せて、事業ベースで黒字化すること」と答えてくれた。

株式会社Sassorは、直販しているサービス以外に、ELPソフトのOEM提供などでも収益を得ている。そのため、実は通期ベースでは黒字化しているそうだ。今はB2B向けのサービスに力を入れていくための準備段階である。

「最終的にはモノとインターネットをつなぐサービスを展開していきたい。電力管理はそのうちの一つと考えている。法人向けのサービスで事業の土台を固め、将来的には再びB2Cモデル、一般消費者向けにサービス展開したい」と石橋氏は意気込む。

先述した『MAKERS』 のヒットをうけて、ベンチャーの製造業に注目が集まっているが、日本でも“メイカーズ革命”は確実に進んでいると感じた取材であった。モノづくり大国日本の復権なるか。株式会社Sassorの今後に多いに期待したい。

株式会社Sassor
代表者:石橋秀一 スタッフ数:3名
設立:2010年9月30日 URL:http://www.sassor.com/
事業内容:
「消費電力を見える化」するELP(Energy Literacy Platform)の開発・提供

当記事の内容は 2013/4/23 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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