平日予約で席が60%埋まる!? どこにでもありそうな居酒屋「魚菜酒 赤兵衛 東口店」が大繁盛する理由

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執筆者: 須田 光彦

設計事務所出身のコンサルタントが引き継いだ老舗居酒屋。超優良経営の秘密
展開している事業内容・特徴

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東京・足立区、綾瀬駅下車1分の雑居ビル2階にある、「魚菜酒 赤兵衛 東口店」。立地だけを聞くと好条件に感じるが、実際は2階へ続く階段の間口分しか店舗の顔を出せない物件のため、知らずに歩いていると見逃してしまう。店舗面積は50坪で100席。オープンキッチンには焼き場と刺し場が見え、テーブル席と掘りごたつ席がある。鮮魚と焼酎と日本酒が売りの、どこにでもあるような居酒屋だ。

しかし、この店には週末ともなると入り待ちの行列ができ、平日は予約で席の60%が埋まる、いわゆる“見えない行列”ができる人気店。なぜこれほど繁盛しているかというと、この居酒屋は、本来の居酒屋があるべき姿を実直に表現しているから。とても優良で、秀逸な経営を実践しているのだ。

実は、この店の社長・田口 和成氏は有名な設計事務所出身のコンサルタント。いろいろな経緯があり、前経営者の引退に伴い、強い要望で経営を引き継ぎ現在に至っている。田口氏が引き継いだ当初の月商は700万円弱であったが、現在の平均月商は800万円以上。

飲食店の経営指標はFL比率(人件費と原価を売り上げで割ったもの)を用いるが、同店では人件費率27%、原価率28.5%なので、FL比率は55.5%となる。FL比率は60%台であれば優秀といわれるなか、この規模の店で55.5%という数字は、なかなか出せる比率ではない。特に人件費の高い東京では、驚異的といってもいいだろう。

その秘訣は、強い仕入れ力と、商材を徹底的に生かしきる高い調理力、そして、常に奇をてらわないスタンダードな商品を提供する、愚直な経営努力にある。

厨房には正規雇用の職人が4名も! 旬の食材を臨機応変に素晴らしい料理にすることでロス率0%を徹底
ビジネスアイデア発想のきっかけ

akabe2 この店の繁盛ポイントは、1仕入れ力、2調理力・商品力、3接客力である。当たり前の仕事を当たり前の仕事として、実直にひたすら追求している。そして、そのやり方をシステム化させているのだ。

1つめの「仕入れ力」については、田代氏の実父に秘密がある。彼は、40年以上寿司屋を営んでおり、一部の食通の間では伝説的な知る人ぞ知る職人だ。鮮魚はその実父に依頼して調達。「利は元にあり」の言葉どおり、旬の食材から一番状態のよいものだけを、毎日、築地から仕入れている。

それも、価格の下がる旬の素材のみを扱い、仲卸業者を介さず直接仕入れることにより、流通にかかる中間コストをカット。低原価で高品質の仕入れを可能にした。

2つめの「調理力・商品力」。これに関しては、効率化の名のもとにコックレスが主流の昨今であるが、赤兵衛ではなんと厨房に4名の職人を正規雇用している。前経営者の代より在籍していた調理長の退職に伴い、若い調理人を新規採用して、商材加工力と商品力を徹底的に高めることに成功した。

効率化を追求した昨今の飲食業の真逆を行っているかのように感じるが、実は、そこには計算し尽くされた戦略が潜んでいる。調理技術が伴わないアルバイトなどの調理スタッフでは、せっかく仕入れた旬の食材を美味しい料理につくり上げることは困難だが、赤兵衛では職人をあえて抱えることで、それらを生かすシステムを確立した。つまり、低い原価で仕入れたどんな食材も現場で加工し、素晴らしい商品に仕立て上げ、食材を使い切ることで徹底的にロスをなくしている。

一番の売りの商品である鮮魚に関しては、メニューに決まった商品を掲載するのではなく、季節のおすすめを充実させ、売り切る体制ができ上がっている。ここの職人は、接客などは一切せず、無駄口を叩くことなく黙々と仕事をし、商品をつくり上げることだけに集中している。経営者が目の前に陣取っても特別扱いすることなく、ただひたすらに実直に仕事をこなす。若い職人たちが寡黙に料理に向き合う姿を前にすると、清々しい気分になるほどだ。

特に注目したいのは、お通しだ。通常、お通しは、店側から一方的に提供される商品である。店によっては原価をかけず既製品をそのまま提供するような店もあるが、田口社長のこだわりはこうだ。「うちは、職人が一品一品手づくりで料理を提供しているのが特徴の店です。ですから、最初に提供するお通しは、これから始まる美味しい料理との出会いを期待させる大切な役割を担っています。もし、お通しが手抜きで美味しさを感じないようであれば、お客様はその店に期待をしないでしょう! ですから、お通しは手抜き一切なし。楽しい時間の序章となるもっとも重要な商品です」。きっぱりと言い切った。

3つめの「接客力」は、販売力ともいえる。実は、田口社長が一番苦労し、現在も奮闘中の課題は、スタッフとのコミュ二ケーション向上と意識改革。すなわち、スタッフのモチベーションを高め、社会人として自立させる点だそうだ。

ここのスタッフは、いい意味で出しゃばらない術を身につけている。好かれるよりも嫌われない接客を実践しており、商品のおすすめの仕方、接客のタイミング、ちょっとした心遣いなど、お客様に意識させることなく行うことができている。

特に素晴らしい点は、商品のすすめ方。商材や調理法のこと、味の特徴や今日おすすめする理由などのポイントのみを、くどさを感じない程度に解説し。説明を聞いているとつい食べてみたくなる、そんな、コミュニケーションを実践しているのだ。ホールスタッフは年配者から若いスタッフまでいるが、もちろん、どのスタッフも同じトーン。接客サービスに大きなムラを感じない。

昨年の苦戦をバネに、システムの安定化と業態のフォーマット化を図りネットワークビジネスへと昇華させる
将来への展望

「赤兵衛」は、綾瀬駅の西口と東口にそれぞれ店舗を設けており、今回紹介した店舗は東口店。ちなみに、西口店は170坪280席の大型店で、地元の宴会需要をきっちりと獲得しており、両店の住み分けはしっかりできているという。

外食産業に限らず、すべての経営者は効率化を求めている。しかし、安直な効率化に伴う商品力と接客力・販売力の低下が昨今の外食産業を弱体化させたと感じる。その点で、赤兵衛の戦略は効率化とは正反対のように見えるが、仕入れ力・調理力・商品力・販売力・接客力、これらをバランスよく整え、すべてをシステム化した新しいかたちの効率化といえるだろう。

「昨年は震災などの外部要因により苦戦を強いられたので、今年度はさらなるシステムの安定化を図る」と田口社長は語ってくれた。今後は、現在の強い仕入れ力と現場での商品開発力を軸にした店舗形態をフォーマット化し、居酒屋をベースにある特定商品を取り出した新しい特化型業態を構築し、多店舗展開することを計画しているそうだ。

具体的には、強い鮮魚の仕入れ力を最大限に生かした刺身居酒屋、地鶏中心の串焼き業態、ほか、多彩なメニューをもった惣菜居酒屋業態の構築を検討中である。

現在も、地方の生産者・酒蔵などと直接契約し、中間業者を介さない仕入れを行なっており、他店にはなかなか真似できない強いUSP(Unique Selling Proposition=自社の強み)を持っている。

また、山の手エリアへの出店は考えておらず、当面は東京の東側エリアを中心にドミナント出店し、検証作業をしていくという。最終的には、人口15万人のエリアでも十分成立する業態を構築し、全国展開できるフランチャイズシステムをつくることが目標だという。

仕入れ力と商品開発力、販売力に特化し、それらをフォーマット化させたビジネスモデルの構築が、田口社長の最終ゴール。そして、フランチャイズネットワークの参加者と成功を分かち合うことを最大の喜びと考えている田口社長。インタビューの最後に、「今後3年間で実現したい」と語ってくれた。

魚菜酒 赤兵衛
代表者:田口 和成 スタッフ数:36名(社員数12名、アルバイト24名)
設立:2010年3月(創業自体は1983年)
事業内容:
飲食店の経営

当記事の内容は 2012/6/21 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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