メニューすべて原価で楽しめるバー。「bar olim(オリム)」。そのビジネスモデルに迫る

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 清水 将仁

ドリンクもフードもすべて原価で提供する、本物志向の老舗のバー
展開している事業内容・特徴

atcf1渋谷区宇田川町で90年代に一世を風靡した伝説のバー「黒い月」を継承し、斬新なシステムで評判のバーがある。有限会社アズザクロウフライが運営するバー「bar olim」だ。2009年3月にオープンしたこの店の特長は、チャージが2,100円と少し割高だが、それ以外のドリンクやフードはすべて原価で提供している。

それもただ低価格を打ち出しているわけではない。提供しているドリンクはカクテル(105円~)、ビール(315円~)だけではなく、本格的なワイン(315円~)や稀有な年代物のウィスキー(210円~)と、品揃えは豊富だ。そして場所は、普段なかなか足を踏み入れる機会が少ない老舗のバー。バーの雰囲気を味わいながら財布を気にせずにお酒を楽しめるとあって、いいお酒を何杯も飲みたいという潜在ニーズを掘り起こすことに成功。瞬く間にクチコミで広がり、このシステムを採用した後、わずか半年で来店客数が前年比150%の増加となっている。

あえて内装は重厚なままに。低価格で本物の雰囲気を味わってもらいたい

だが新規客獲得の観点から見れば、重厚で落ち着いた雰囲気のバーは、常連客でなければ敷居が高く感じてしまうデメリットがある。しかしそれは有限会社アズザクロウフライの代表取締役であるの小林信秀氏の狙いでもある。小林氏は「バーにとってもっとも大切なのは、時間と空間」と考え、内装や店名はあえてそのまま継承する。変えるところは極力最小限に抑えることで、常連客も含めたバーの歴史そのものを受け継ぐことを目指しているためだ。そのかわり、スタッフや価格は新しいものに入れ替えた。

ハードは一切変えないが、ソフトは思い切って変えることで、時代に合わせたバーのあり方へと形を変えている。その結果、常連客はもちろん、アルコール離れが目立つ若年層の新規客も増え、値段ではなく自分の好きなドリンクやフードを選んで楽しむお客が増えたことで、結果的に客単価も上がっているという。

特別なことはしない 時代に合わせて焼き直しをするだけ
ビジネスアイデア発想のきっかけ

「bar olim」の原価提供という仕組みを思いついたキッカケは、小林氏がまだバーテンダーとして働いていた頃にさかのぼる。当時の業界では価格戦略をNGとするトレンドがあったが、それに違和感を抱いていた。そこで、小林氏が17年前に吉祥寺で出店した際に、オーダー価格の上限設定を試みた。どれだけオーダーしても限価格以上はかからないから、お客は安心して楽しむことができる。同業者から嫌われることとなってしまったこの戦略は、結果として多くの顧客の支持を得て、現在も人気店となっている。また代々木では100円ワインのバーも展開。たった8坪のスペースであるにも関わらず、年間10,000本もボトルが売れているというから驚きだ。代々木の店舗は連日大勢のお客で賑わっていて、今では予約も困難なほどだという。

バーという文化を守るためのビジネスモデル

atcf2そんな小林氏が新たに仕掛けた価格戦略は、バーならではの特徴を生かしたものだ。外食産業にあって、バーだけが時間と空間にコストをかけている。同じ一杯のお酒でも、レストランで食事をしながら楽しむことと、バーでバーテンダーと会話をしながら楽しむことは目的が異なる。そこで、まずは多くの人にバーに訪れてもらって、バーの雰囲気を楽しんでもらうことを目指してきた。同時に、小林氏はバーという文化そのものものに危機感を覚えている。このままでは斜陽産業として衰退してしまう…。そんな思いも原価提供のバーをはじめた動機の1つだ。

昨今の少子化や、若者のアルコール離れが言われるなか、「カクテル1杯を1,000円で提供するような、今までのバーのあり方はもはや通じない時代」と語る小林氏。ドリンク1杯に対する価値は下がってしまったが、バーの空間やバーテンダーのサービスといったコンテンツには価値がある。そこで収益ポイントを、ドリンクからコンテンツにシフトするというのが、このバーのビジネスモデルと起点となった。

現在、小林氏は都内で10店舗を運営しているが、外食産業には珍しくバーに特化している。そしてそれらのバーではそれぞれ異なったコンセプトで運営している。このバーもそのひとつだが、奇をてらった戦略ではなく、時代に合わせて進化をした結果だと小林氏は言う。あくまでもバーの価値は時間と空間にあると考えているからこそ、価格戦略で勝負できるのだ。

バー文化の継承と次世代バーの創造を目指して
将来への展望

小林氏は閉店を余儀なくされる老舗バーを対象に事業承継、店名や常連客を残す形での再生スキームを複数成功してきているが、それはバー文化を継承したいという想いからだ。設備や内装にコストをかけたバーや、洗練されたテクニックを持つバーテンダーの価値というものは時代を経ても変わらないものが、日常的に足を運ぶマーケットとしてはバー業界は縮小傾向にある。そんななかで、ターゲットやコンセプトを明確にし、強みを生かした店舗にすることが、バーを発展、進化させていくことへつながると、小林氏は考えている。

また東日本大震災で、東北地方の多くのバーが被災したことを受けて、すぐに支援に乗り出した。「バーがその灯りを絶やさぬように」と、震災直後にオリジナルの灯りボトルを仙台のバーへ2度送っている。バーという空間と、バーテンダーという職が、被災した人々の気持ちを繋ぐと感じたからだ。

バーテンダー、そしてバー経営者という両方のキャリアから、「原価提供」、「オーダー価格の上限設定」、「100円ワイン」など、次々とアイデアを生かした顧客目線の戦略を展開し、時代にマッチしたコストパフォーマンスが幅広い顧客層を獲得するに至っている。次世代バーの創造を目指す小林氏の挑戦はこれからも続く。

有限会社アズザクロウフライ
代表者:小林信秀 社員:26名
設立:1995年10月 URL:http://atcf.jp
事業内容:飲食店の経営

当記事の内容は 2012/1/5 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める