コンピュータビジョンと機械学習技術を駆使して未来予測をするベンチャー「ABEJA(アベジャ)」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

数ヶ月後の来店客数を予測し、それに備えた行動を想定。そんな未来予測マーケティングを提供するベンチャーが登場
展開している事業内容・特徴

20140821-1「心理歴史学」。SF好きならピンとくるだろう。SF小説の大家、アイザック・アシモフの作品「ファウンデーションシリーズ(銀河帝国興亡史)」に登場する架空の科学学問分野だ。人間の歴史は十分な人口があれば数学的に予測可能という設定のもとに、未来があらかじめ予測されていたらどうなるかをテーマにしている。

しかし、今回紹介する株式会社ABEJAというベンチャーは、「心理歴史学」を実現するかもしれない未来予知を行っている。

同社が提供している「IN-STORE MARKETING(イン・ストア・マーケティング)」の仕組みは、コンピュータビジョンにより取得したデータを自動的に分析しながら未来予測をするというサービス。

例えば「今から3カ月後にこういう属性のお客様が増えるので、あらかじめこういった用意をしておくべき」という売り上げに直結する実行動を教えてくれることを目指している。すでに大手流通企業など数十社でデータの取得を開始している。

同社代表の岡田陽介氏によれば、ビックデータと機械学習技術を応用したマーケティングソリューションによって実現。この仕組みを簡単に説明すると、店舗に設置している画像センサーから取得した膨大なデータや会計データをもとに、コンピュータが独自にどの要素がどれだけ来店数や成約率に結び付くかを計算し、分析を行っている。

同サービスが処理するデータ量数は億単位。システムそのものは資本業務提携先であるさくらインターネット株式会社やAWS(アマゾン ウェブ サービス)が提供しているクラウド型のコンピュータ上で稼働している。売上やコスト削減に影響する変数の洗い出しそのものから自動計算している。扱っている変数が多すぎて、人的には到底理解できないほど膨大な仮説と検証が処理され、計算結果を見ると、まったく予想外の項目が結果に大きく影響していることがわかるのだ。

これまでの予測は、天候や温度、メディア情報やイベント情報などを人間が把握し、経験と照らし合わせて、商品の発注量やアルバイトのシフトを組むといった具合だった。しかし、そうしたアナログな予測には限界がある。同社のサービスはそれらの詳細データを含めて仕組み化したのだ。

こうした高度なマーケティング分析や未来予測の取り組みは、海外が先行している。例えば、ドイツのSAP社はサッカーの試合の観客動員数予測などを行っている。ある選手が怪我をすると、次の試合の観客数がこうなるといった予測を計算。その精度は非常に高いことで知られる。

これまで熟練の店長や店員が経験によって判断していたことが、近い将来はコンピュータがはじき出した未来予測に置き換わるかもしれない。そうなれば、過剰在庫や人員の配置ミスといった経営判断のロスも減るだろう。まさに未来に勝ち残る小売業が欲している仕組みといえる。

技術シーズを商用化し、それを研究費に回す。そんな構想で、学術界からビジネスイノベーションを興すべく起業
ビジネスアイデア発想のきっかけ

20140821-2株式会社ABEJAは2012年9月に創業したベンチャーだ。創業メンバーは岡田氏と緒方貴紀氏の2名。一緒に起業した緒方氏は、「絶対に天才だ」と岡田氏が見込んでいた仲間だ。

岡田氏は1988年、名古屋に生まれた。小学生のころからコンピュータープログラミングに取り組み、高校時代にはコンピュータグラフィックで文部科学大臣賞に輝いた。大学でもコンピューターサイエンスを専攻。2011年2月に最初のベンチャー企業を設立した。

その後、尊敬する経営者のもとで勉強したいと考え、株式会社リッチメディアに入社。同社では新規事業開発を担当していたが、シリコンバレーに滞在していた際に、技術シーズからメガベンチャーが続々と生まれる生態系に衝撃を受けた。

そして、技術シーズからメガベンチャーが生まれる世界を日本にもつくりたいという思いから、再度起業への道に踏み出す。岡田氏は米国で先行していたIN-STORE MARKETINGという分野に目を付けた。日本にはまだプレイヤーがいなかったため、この分野には大きなチャンスがあると踏んだのだ。

再起業を決断した岡田氏は、退職を会社に伝えた。「すぐに退職を決断したのは、あれこれ悩んでしまうと起業できないと思ったから。退路を断って挑戦した」。すでにマネージャーの重責にあったが、2012年4月に退職して起業準備に入る。

IN-STORE MARKETINGの分野でサービスをつくると決めたものの、具体的な計画はなし。それでも、多くの大学教員に協力を仰ぎながら、2012年9月に資本金100万円で会社を設立。同年12月にサービスをローンチした。

サービスを開始した当初は、IN-STORE MARKETINGという仕組みそのものが理解されなく苦労した。岡田氏自身がトップ営業で説明に回り、「未来の店舗はこうなる」と説いて回った。利用する小売業にとってはまるで夢物語のようなサービスだったが、某大企業で採用が決定するなど、理解してくれる会社が徐々に広がり始めた。

平行して資金調達も進めた。エンジェルラウンドでは、現在弊社の取締役でもある富松圭介から、シードラウンドではインスパイアなどから資金を調達。その後、シリーズAラウンドでは、さくらインターネットやNTTドコモベンチャーズなどからも出資を取り付けている。創業当初に支援を頂いた富松や高槻(株式会社インスパイア代表取締役社長)には大変感謝しているという。

2014年8月時点で社員は11名。大半がエンジニアだ。岡田氏によれば、いつも感謝をしている苦楽を共にした創業メンバーと、まだ見ぬ未来を創る新たな仲間達が加わることで更なるスピードアップを図る今からがGo to marketのフェーズであるという。

学術界からイノベーションを! 大学の研究を商用化する仕組みづくりを目指す
将来への展望

20140821-3岡田氏にこれからの展望を伺ったところ、同社のビジネスをグローバルに展開し、IPOまで持っていくのが当面の目標。

しかし、岡田氏の狙いは単なるマーケティングツールの提供だけはない。学術界からイノベーションを興し、ビジネスとして回すことで得た資金を研究費として還流させる仕組みをつくること。

日本の大学は、科研費などを獲得するためのさまざまな作業に忙殺され、本来しなければならない研究に専念できない。また、たくさんの貴重な技術シーズがあっても、研究室止まりでビジネス化されないことも多い。岡田氏は、大学発の技術シーズからメガベンチャーを生み出し、そこからの資金で潤沢な研究費が得られるような、イノベーションサイクルをつくることを夢見ている。

日本で古くから培われてきた多様な文化、日本語の豊かな表現力やおもてなしの機微……そうした特色は世界から羨まれる日本独特のものだ。岡田氏は日本的な価値を重視して、シリコンバレーとは違う新しいイノベーションサイクルを興したいと考えている。

例えば「おもてなし」。お客さま一人ひとりに合わせて、接客やサービス内容を変えるような心配りは、日本独特の文化的価値。こうした気配りを最先端のテクノロジーにより実現できないか……。岡田氏の視線の先には、GoogleもAppleもない。日本発メガベンチャーの新たなかたちが見えているようだ。

株式会社ABEJA
代表者:岡田 陽介氏 設立:2012年9月
URL:
http://www.abeja.asia/
スタッフ数:
事業内容:
最先端テクノロジーを活用したビジネスプロデュース事業

当記事の内容は 2014/8/21 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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