三陸沿岸から世界に発信できるワインをつくる「Three Peaks Winery(スリー・ピークス・ワイナリー)」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

三陸沿岸に点在するワイナリーをつないで、国内外から大勢の観光客を呼べる「大船渡」を目指す。
展開している事業内容・特徴

20140418_3リアス式海岸で知られる東北・三陸沿岸に、ワインづくりに挑戦している若者たちがいる。「Three Peaks Winery(スリー・ピークス・ワイナリー)」は、岩手県大船渡市にあるワイナリー。新たに立ち上げたのは及川武宏氏。35才の青年だ。ふるさとの大船渡から世界に発信できるワインをつくろうと、3.11の大震災後、2013年5月に立ち上げた。

実は岩手県沿岸や宮城県沿岸には、ワイナリーづくりに取り組む個人や団体が点在している。つないでいくと三陸沿岸がワインで結ばれるため、三陸沿岸をワイナリー地帯として売り出そうという構想が進んでいる。

幸いなことに、大船渡市はワインの一大産地であるスペインの、パロス・デ・ラ・フロンテラ市と姉妹都市の関係にあった。スペインに出張する機会を得た及川氏は、スペインのワイナリー経営者や食事業者らと交流を深めてきた。そこでワイン造りのノウハウなども学んだ。

20140418_22013年、2014年と続けてピノノワールとシャルドネという葡萄の木を植えた。全部で700本ほどだ。畑の規模としては大きくないが、葡萄の収穫は人による手摘みを考えているため、これぐらいの規模でもっと葡萄畑を増やしていく予定だ。

また、自然の力を借りたエコな葡萄畑にしたいと、知人らと共に雨水をろ過する装置や太陽光発電の設置にも取り組んでいる。

植えた葡萄は、収穫できるまでに約3年かかるため、その間は他の農園から買い付けた葡萄を原料とし、岩手県内の醸造会社で製造したワインを販売する。そのための酒販免許も取得した。

さらに及川氏は、隣接する陸前高田市のりんご園の栽培を引き受け、ジャムやジュースといった加工商品も開発し、販売している。受託栽培しているりんご園は及川さんの知人のものだが、辞めようとしていたところを、及川さんが引き受けたのだ。

20140418_1子供の頃から食べていたりんごへの愛着もあったが、何よりも、120年以上続く陸前高田市のりんご栽培の歴史を途絶えさせたくなかった。このりんご園の木はどれも30年以上の老木が多い。及川氏によれば「老木に生るりんごは、手間はかかるがうまいんです。これ以外食べられない」ワイナリーでは、この農園のりんごを使ったシードルも醸造予定だ。

Three Peaks Wineryでは、完成したワインを販売するだけではなく、ワインづくりの過程にも触れてもらおうと、葡萄の植樹体験、収穫イベントなどに参加できる会員制を導入している。2013年に立ち上げたばかりだが、現在数十名の会員が登録している。

会員制をとったのは、長く深く、顧客とつきあっていくことが狙い。収穫した葡萄で作ったワインは数年後に出来上がる予定で、リンゴのシードルなどとあわせて、年間2万本の生産を目指す。いずれは宿泊事業やレストラン事業も立ち上げる計画だ。

ニュージーランドの葡萄畑でのアルバイトが新事業のヒントに。
ビジネスアイデア発想のきっかけ

「Three Peaks Winery(スリー・ピークス・ワイナリー)」を立ち上げた及川氏は、10代の頃はサッカー選手として活躍し、高校では全国大会にも出場したスポーツマンだ。高校を卒業後、もっと広い世界を見たいと東京で就職したが、いずれ大船渡に戻ってビジネスをしたいと考えていた。

ワイナリーにたどり着いたのは、ワーキングホリデーで訪れたニュージーランドで、葡萄畑のアルバイトをしたことがきっかけだった。小さなワイナリーが点在するその町には、海外から大勢の観光客がやってきた。同じ地域でも、ワイナリーごとに違うワインの特徴を楽しむことができるため、観光客は何日も滞在するという。

及川氏がこの経験をきっかけに思い付いたのは、格安ゲストハウスの運営だった。ニュージーランドのワイナリー周辺には安く泊まれる「バックパッカーズ」と呼ばれる宿があり、観光客が大勢利用していた。

及川氏は、このバックパッカーズをまずは東京に作ろうと考え、事業計画を立て、物件探しや融資の相談をして準備を進めていた。

その矢先、3.11の大震災が起きた。

出身地である大船渡市も被害は大きかった。及川氏の計画はここで中断。知人に誘われて、震災後に設立された東日本大震災復興支援財団に転職した。そこでは、東北からスポーツアスリートを輩出するための育成事業や、高校生らを対象とした支援事業に携わっていたが、事業が一段落したところで、再び自分のビジネスを立ち上げようと思い、家族と共に大船渡に戻った。

大震災で一時頓挫したバックパッカーズのような宿泊施設の事業も諦めてはいなかったが、及川氏の頭の中には「本格的にワイン事業に取り組もう」という想いがあった。東京に格安ゲストハウスを作るよりも、地元岩手の大船渡のためになる事業は何か…と考えた末、ワインの生産からワイナリーを軸とした観光ビジネスまでできないかと考えた。

120年以上続く陸前高田市のりんご栽培に続いて、ワイン事業も100年以上続けたいという壮大な構想と覚悟をもって進めている。未来の子供たちに残したい大事な事業としてスタートしたばかりだ。

大船渡から、世界を相手に仕事ができる環境を子供たちに残したい
将来への展望

及川氏にこれからの展望を伺った。まずはワイナリー事業を軌道に乗せること、世界に発信できるワインをつくること。動き続ける自分の姿を通じて、大船渡からも世界を相手に仕事ができるということを、子供たちに示したいと語る。

印象的だったのは「10代の頃にもっと広い世界を見ることができていたなら」と及川氏が振り返ったことだ。家族を持った今、その思いは別の形でThree Peaks Wineryに投影されているのだろう。

及川氏は高校卒業後、広い世界を見たいと大船渡を飛び出したが、日本でも海外でも、旅先でどこから来たのかと尋ねられれば必ず「大船渡から来た」と話していたという。常にふるさとへの想いがあった証だ。外を見てきた経験がすべて活かされ、今の及川氏の取り組みにつながっている。

葡萄の成長と共に楽しみなことがあるという。それは、公益法人での仕事を通じて出会った大船渡の女子高校生が、農業に携わりたいと、この春に農業関係の大学に進学したのだ。
「彼女が卒業して大船渡に戻ってきたいというなら、必ず受け皿になりたい。それまで、しっかりと葡萄とりんごを育てて、事業を大きくしていきたい。」及川氏はそう決意している。

Three Peaks Winery
代表者:及川 武宏氏 設立:2013年5月
URL:
http://3peaks-winery.com/
スタッフ数:4名
事業内容:
・果実酒の販売
・りんごの加工商品の開発、販売
・葡萄、りんごの栽培

当記事の内容は 2014/6/3 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める