急成長する組織を支える企業理念。ベンチャーならではのユニークな取り組み

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

大企業からベンチャーまで。各社各様の企業理念

休みなく働くことを強いられている、ベンチャー経営者は多い。ゴールデンウィークくらいはゆっくりと体を休めて、家族と過ごしたり、旅行に出かけた方もいるかもしれない。しかし、経営者の性か、そんな時でも、ビジネスのことが頭に浮かんできてしまう……。

今回は、ゴールデンウィーク中に、会社や事業の将来についてじっくり考えてみた経営者の方々に「ベンチャーの企業理念」というテーマを投げかけてみたい。

あなたの会社に「企業理念」はあるだろうか? また、他社の「企業理念」をいくつか知っているだろうか? まずは有名企業の企業理念やコーポレートメッセージを見てみよう。

「まだ、ここにない、出会い。」

CMでよく目にする、リクルート社のコーポレートメッセージ。リクルート社のコアビジネスである、求人や結婚、住宅など、人生の大きな転換期に生じるさまざまなサービスとのマッチングを端的に表したフレーズだ。

「情報革命で人々を幸せに」

これはソフトバンクの企業理念。出版事業からスタートし、ポータルサイト事業、そしてインターネット通信、電話事業などで、情報通信分野では世界有数の企業に成長した同社。その歴史を一言に集約したような企業理念といえる。

「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」

ソニー創業者の一人、井深大氏が起草した“東京通信工業株式会社設立趣意書”の一節。ものづくりの世界ではあまりに有名なフレーズで、この理念に共感して同社を志望するエンジニア、理系学生も多いという。

企業理念もベンチャーらしく! ベンチャーならではのユニークな取り組み

急成長するベンチャーにとって、実は「企業理念」ほど大事なものもない。1年で社員数が数倍に増えることも珍しくない状況で、急膨張する組織をまとめるには、明確な「企業理念」で社員の意識を一つの方向にまとめ、自律的に動いてもらうことが重要だ。

また、資金力や知名度で劣るベンチャーが激しいビジネス競争に勝ち残っていくためには、ほかにはない技術やサービス、あるいは経営陣の力といった強みも大事だが、なんといっても一緒に頑張ってくれるスタッフ、社員のモチベーションこそが最大の強みになる。

大企業並みの高い給与や福利厚生が難しいベンチャーのスタッフにとって、モチベーションの源泉はそのベンチャーが成し遂げたい目標の共有、企業理念への共感そのものだろう。

カネもモノも足りない経営状態であっても、ヒトの持つ知恵や情熱が明確であれば猛烈な推進力を生む。成長と縁遠い中小零細企業と猛烈に成長しつづけるベンチャーを分ける一線も、「企業理念」のあるなしにあるかもしれない。

そこで「企業理念」について、ベンチャーならではのユニークな取り組みを紹介したい。

以前「スマビ総研」でも取り上げたベンチャー「バンク・オブ・イノベーション社(BOI社)」が2014年4月に自社の企業理念を「写真絵本形式」にして出版した。さらに、本著をいつでも誰もがお手元に置いておけるようAmazon.co.jpで販売も行っているそうだ。

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会社の理念や信念を冊子にまとめたものといえば、リッツカールトンのクレドカードが有名だが、写真絵本というかたちで社員に配り出版までしたのは、筆者の知るかぎり、BOI社が初めてだと思う。

BOI社はソーシャルゲームをメインとした事業を展開し、コミュニケーションプラットフォームのリリースも控えているが、社員数が前年比5倍というハイペースの成長を続け、2014年5月時点で165名もの陣容になっている。

BOI社は自社の「企業理念」を「BOIZM(ボイズム)」と呼んでいる。ちなみに「BOIZM」とは、PHILOSOPHY、VISION、BOING5(行動指針)の3つをかけ合わせたBOIの存在意義や使命の総称とのこと。なぜ「企業理念」を絵本化したのか? 取締役COOの小梨明人氏に伺った。

「企業が成長し続けるためには『企業理念』の浸透が不可欠です。理念なしの企業はいつか成長が止まるという信念のもと、『企業理念』を絵本化しました。主旨は当社のPHILOSOPHY『革新的なプロダクトでイノベーションを起こし続ける』を社員が一丸となって必達すること。そのための手段として、企業理念である『BOIZM』を社内に浸透させ志の高い既存社員を増やし、さらに『BOIZM』に共感することを必須条件とした採用活動を行う狙いで本プロジェクトがスタートしました。」

実際、小梨氏によれば、絵本化の作業には 半年もの時間を費やしたという。

「BOIZM」の絵本のすべてのページには写真が入っている。それぞれの1枚の写真を選ぶのに何百とおりもの写真の中から最適なものを選択しなければならない。また、印刷入稿1週間前に内容の変更が入ったため、ページの半分をつくり直すなどしながら、自らが執念をもってやり遂げたという。

また、本著はAmazon.co.jpで販売し利益を得る事が目的ではなく、より多くの方に知っていただくために「BOIZM」を動画という形でYouTubeに公開している。さらに、社員だけでなく、社員のご家族やご友人、そしてBOI社を知らない多くの方にも本著を読んでいただきたくために、本著のブックビューアも一般公開しているそう。

動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=dPatChpOI0g

たかが「企業理念」の冊子と思うなかれ。急成長するベンチャーの経営者というのは、ここまで徹して自社の理念を考え、全社員に伝えようと真剣に取り組んでいるのだ。

例えば面白法人カヤックの企業理念は「つくる人を増やす」だが、同社は“経営理念日本一の会社”とも謡っている。確かに「企業理念」で検索すると、並み居る大企業を押し分けてカヤック社が検索結果1位に表示される。ユニークな取り組みで知られるベンチャーだが、2014年4月時点で200名近くの社員を抱えている。

急成長するベンチャーにとって、企業理念は重要な組織戦略

会社組織、特にベンチャーを取材していて感じることは、30~50名規模まで成長すると、創業当初に行っていたマネジメントの限界を迎えることが多いということ。創業メンバーと社員の間を取り持つ中間マネジメント層が稀薄になるからだ。もちろん、マネジメント層を採用することは可能だろうが、優秀な人材を確保することは難しい。また、社内で育成していくのにも時間と労力がかかる。

そうした“成長の壁”を突破して、100人、200人と組織に成長するために、確固たる「企業理念」は大きな後押しとなる。マネジメントせずとも、社員が企業理念のもと、自立的に動ける組織をつくりたいなら、「企業理念」は急成長するベンチャーにとって最適な解かもしれない。

今回お話しを伺ったBOI社の小梨氏によれば、「BOIZM」を絵本化したことで、予想外の効果も生まれたという。新しい挑戦をしていく、イノベーションを起こしていく企業であるということをビジュアルで家族や友人にも見せられることで、社員の意識が変わり、誇りを持ってビジネスに取り組めるようになったそうだ。

まだ、明確な「企業理念」をつくっていない経営者の方々は、少し落ち着ける時間を用意して、「自社の成長にとって最適な解」である「企業理念」を考えてみるべきだと思う。

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