起業の志:「企業中心市場」から「顧客中心市場」への市場の変革

起業の志

顧客中心市場では「新たな常識」が生まれる?

 

 情報主権の革命によって生まれる「顧客中心市場」。

 では、そこで何が起こるのか。

 最初に理解すべきは、これまでの「企業中心市場」の常識が、すべて書き換えられていくということです。米国では、この変化を「Next Common Sense」(次なる常識)と呼んでいますが、日本語で言えば、市場において「新たな常識」が生まれてくるということです。

 例えば、ネット革命で最初に生まれてきた顧客中心のビジネスモデルとして、「ダイレクト・セールス」(直販)のモデルがあります。しかし、このモデルが「顧客中心」と呼ばれるのは、決して「顧客が店に足を運ばないで済む」からではありません。それだけなら、ネット革命以前にも、「カタログ通販」や「テレビショッピング」などがありました。

 このビジネスモデルが「顧客中心」と呼ばれるのは、顧客が「自分の本当に欲しい仕様の商品を購入できる」からです。

 例えば、デル・コンピュータでは、パソコンを購入するとき、ディスプレーやキーボード、CPUやメモリーなど、自分で好きな性能、デザイン、仕様を細かく選んで購入することができます。

 それは、ある意味で、「顧客は、自分のためだけに作られた、世界で一つしかない商品を購入できる」という「新たな常識」が生まれたことを意味しています。

 

 また、例えば、「オークション」や「逆オークション」などのビジネスモデルも、「新たな常識」を生み出しました。なぜなら、これまでの市場では、どれほど値引き競争を行ったり、ディスカウントを行っても、「商品の値段」は、あくまでも企業の側がつけていたからです。

 すなわち、「オークション」(競り)も「逆オークション」(指値)も、いずれも、顧客の側が「商品の値段」を指定することができるビジネスモデルであり、ネット革命によって、「商品の価格は顧客が決める」という「新たな常識」が生まれたのです。

 さらに、もう一つの例を挙げれば、「ギャザリング」(集団購入)のモデルがあります。

 これは、「100個まとめて買うと、2割引き」などの条件をネットショップが顧客に提示すると、顧客同士が声をかけあい、100人が集まり、商品を購入してくれるというビジネスモデルです。

 これも、「新たな常識」を生みだしたビジネスモデルです。なぜなら、従来の市場では、企業の側がマーケティングを行うことが常識であったからです。これに対して、この「ギャザリング」というビジネスモデルは、「顧客がマーケティングを行ってくれる」という「新たな常識」を生み出したのです。

 

 そして、こうした「新たな常識」が次々と生まれる時代は、起業家にとっては、絶好のチャンスです。

 なぜなら、これからの「顧客中心市場」では、従来の市場の「古い常識」にとらわれることなく、柔軟な発想でネットの新たな活用戦略を考え、迅速な行動力で顧客中心のビジネスモデルを構築し、大胆に市場の古い常識を書き換え、「新たな常識」を生み出していく起業家こそが、市場での主導権を握り、市場の進化を推し進めていくからです。

 

顧客中心市場では「中間業者」も進化する

 そして、「企業中心市場」が「顧客中心市場」へと進化するとき、市場においては、こうした「新たな常識」が生まれるとともに、もう一つの大きな「進化」が起こります。

 

 「中間業者」の進化です。

 では、それは、どのような進化なのか。

「古い中間業者」から「新しい中間業者」への進化です。

 

 その進化は、最初、「古い中間業者」の淘汰から始まります。

 それを象徴するのが、1996年頃にシリコンバレーで語られた、あの言葉です。

 

 「Middleman will die.」(中間業者は死に絶える)

 

 たしかに、この言葉どおり、ネット革命によって、それまで市場で活躍していた「小売」や「卸売」などの「中間業者」(Middleman)は淘汰されていきました。ネット革命が、生産者と消費者を直接結びつけ、いわゆる「中抜き現象」、英語で言えば「dis-intermediation」を起こしたからです。そして、ネット革命の進展にともなって、この「中間業者は死に絶える」という言葉が、ますます「現実」のものになると、誰もが思い始めたのです。

 

 しかし、それから3年後の、1999年頃から、シリコンバレーでは、この「中間業者は死に絶える」という言葉を覆す、新たな言葉が語られ始めたのです。