Vol.6 ケータイサイトの現状と課題。フルブラウザの登場。

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
企業のケータイ活 用を阻害する大きな原因のひとつに、システム導入の煩雑さがあります。特に「キャリア別対応」「機種別対応」はケータイ固有の大きなハードルになっていま す。今回は、その大きな問題がなくなったら? というお話です。

 

「1999年のi-mode登場から7年。企業のケータイWEB活用が進んでいるとは言いがたいですよね。正直、もうちょっと、なんとかならないものかと 思いますが」

「今年(2006年)以降の大いなる変化に、期待したいですね」

 "Mobile Marketing Conference 2006"の、パネルディスカッションでの一幕。なるほど、やっぱりみんな同じように感じているんだな、と苦笑いしました。企業が PC-WEBを活用するのはいまや常識ですが、ケータイWEBサイトを戦略的に利用しているという企業は、実はそんなに多くありません。本コラムでは、こ れまで(ある意味、執拗なまでに)ケータイの持つ「大きなビジネスチャンス」を謳っていますが、現実にそれを手に入れている企業はごく一部…というのがい ま(2006年6月現在)の状態です。
 

簡単そうに見えて簡単ではない、という現実

 モバイルをお仕事にしている方なら誰もが知っているのに、そうでない方は案外知らない。この場をお借りしてぜひ紹介しておきたいのが「キャリア別 対応」「機種別対応」の問題です。ケータイのコンテンツは、キャリア(通信事業者)ごと、ケータイ端末機種ごとに表示可能な画像ファイル形式、解像度、画 面サイズ等が異なるため、WEBページの記述を調整しなくてはなりません。

 たとえば、画像入りのコンテンツ1ページを作成したとしま す。これをケータイ端末の全機種でキレイに見られるよう調整するためには、ファイル形式や画像サイズ別に、のべ200種類くらいの画像バリエーションを用 意することになります。ケータイコンテンツ特有の「絵文字」ひとつ取っても、キャリアごとに絵文字セットも違えば、文字コードも異なります。そこで、キャ リア横断でコンテンツ提供するケータイサイトでは、ダイナミックページ生成システムやページを振り分けのシステムを使って、訪問者ごとに最適化したWEB ページを表示させるのが一般的です。

 PC-WEBでも最近はIE、FireFox、SAFARI…と、複数のブラウザ対応が求められます よね? それとよく似ています。ただ、ケータイの場合は各社から次々と新型機種が登場し、そのたびに対応すべき新たな対応バリエーションが加わります。専 門の人材なしではとてもすべてには対応しきれません。

 そんな舞台裏を知ってか知らずか、企業は当然のように「誰もが、どんな端末からで もアクセスできること」をケータイサイト構築に求めます。そして具体的な検討を始めたとたん、その実現に特別なノウハウの施されたシステムと膨大な確認作 業が必要であることを知ります。そして、時に唖然とします。

「なるほど、市場ニーズはあると思うのだが、専用システム導入の手間、ROI(return on investment 投資利益率)を考慮すると、慎重にならざるをえない」
「では、めんどうを回避するためにASP(アプリケーションサービス プロバイダー)を利用しましょう。機能は限定されるけど、仕方ないです」
「運営の手間と弊社顧客データの結果とを勘案し、一部キャリアだけにコン テンツ提供することにしました」

 いまの企業のケータイサイト導入が盛り上がらない背景には、このような逡巡や諦めが少なからずあると考 えられる。

 

「フルブラウザ」が業界の生態系を塗り替える?

 実はこの「キャリア別対応」「機種別対応」はサイト構築上の大きなハードルである一方で、専門のケータイ事業者にとってはビジネスチャンスとなっ てきたのも見逃せない事実です。

 1コンテンツ200バリエーションもの画像作成を手作業で対応できるわけがありません。絵文字を一文字ずつ手作りで差し替えるのも非現実的。そこ で、そのソリューションを提供する企業が求められます。

「難しいことは全部解決します! ぜひ弊社にお任せください」

  ケータイコンテンツASPやケータイ専門WEB制作会社、ケータイ・コンサルタント稼業が成立するのはそういうブラックボックスがあるからとも言えるかも しれません(かく言う自分自身がそのシステムの中のプレイヤーとして起業している身。なんとも微妙な話なのですが……)。

 この問題ゆえに企業はケータイWEBサイトの導入をためらい、その一方で、この問題ゆえに業界にビジネスが生まれているという共依存の生態系がで き上がっています。しかしこの生態系にいま変化の兆しが訪れています。「フルブラウザ」つまり、PC用のWEBサイトをケータイで見られるブラウザの普及 です。

 

結婚記念日が試合開始日?

 実は最近発売のケータイ端末には、あらかじめフルブラウザが搭載されている機種が増えてきました。しかし利用通信料金はパケット定額制の適用外。 うっかりフルブラウザを利用すると、後からものすごい金額が請求されるというしくみになっています。結果、フルブラウザはごく限られた人たちが利用するだ け。しかし、この状態がずっと続くとは思えません。

 1年ほど前には「フルブラウザ」という名称をドコモが商標登録出願しているという報道がありましたし、先日はソフトバンクモバイルがケータイ用の ブラウザ開発を進めており、早い段階での全機種フルブラウザ導入を検討しているという報道がありました。全容は明らかにされていませんが、少なくとも各 キャリアがフルブラウザの利用を積極的に推奨する姿勢であることが見て取れます。

 ケータイ端末にフルブラウザが普及し、利用のパケット 代に定額制が適用されるようになるとどうなるでしょう?ケータイ専用の(キャリア別・機種別)ブラウザがすぐに消滅するとことはないでしょう。しかし企業 がフルブラウザでの閲覧を前提にしたサイト構築を選択すれば、導入の足かせとなっていた「キャリア別対応」「機種別対応」の問題はパスできます。企業は ケータイサイト構築・運営のためのコストを(PC用との共用によって)ゼロにできるオプションをも手にします。ケータイ専用サイトを構築するにしても、特 別なシステムが不要なら制作・運用も容易。堰を切ったように企業発のケータイサイトが生まれることでしょう。

 それはPC-WEB業界と ケータイWEB業界との"結婚記念日"になるかもしれません。

「PC用に作られたWEBページをケータイユーザーにも利用させよう」
「い やケータイユーザーにはケータイ専用サイトが必要だ」

といったユーザビリティについての論議、あるいは、

「コンパチブル(相 互性のある)コンテンツをどのように作成・管理するのか」
「WEB標準の文脈の中でケータイコンテンツをどう制作するか」

などの論 議が、PC-WEB業界とケータイWEB業界の垣根を越えて熱を帯びるでしょう。これらのまったく新しいソリューションのビジネスも活性化するでしょう。

  あるいは日本のケータイWEB業界と世界のモバイル業界の"試合開始日"になるかもしれません。フルブラウザ閲覧環境整備に前後して、海外発フルブラウザ 対応端末が日本市場をターゲットにしてきます。(それら製品が日本市場に受け入れられるかどうかは蓋を開けてみなければわからないとして)モバイルマーケ ティングをめぐる本格的なグローバル競争の渦に、日本のケータイ業界が飲み込まれることになるでしょう。ケータイメーカーだけでなく、コンテンツプロバイ ダ(CP)などWEBでサービスを提供する企業もがグローバルな競争・合従の波をかぶるようになるのではないでしょうか。

 来るべき「そ の日」は、1年後のことなのか、2年後のことなのか、いまのところ見当つきません。(このままでは、ケータイビジネスの「オオカミ少年」になってしまいそ うです・・・)しかし、その日が来たとき、自分たちがどんな仕事をしているべきなのか、クライアントにどんなバリューを提供できなくてはならないのかをイ メージすると、「新しいケータイ」世代の、目指すべき「新しいケータイ」企業/起業の姿が見えてくるように思うのです。

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