会社経営に必要な法律 Vol.42 仕事を理由に裁判員を辞退できるのか?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
今回は、裁判員制度について、裁判員の選考手続きの流れや辞退の可否について説明します。

 

裁判員制度が2009年5月21日にスタートしました。できたばかりの制度ですので、今後、実際の運用の中で生じるいろいろな問題に対応していくことが必要と思われますが、今回は、裁判員候補者が裁判所の呼出に応じないという事態が発生したというニュースを取り上げ、裁判員が選ばれるまでの手続きの流れや、裁判員候補に選ばれた場合の辞退の可否などについて説明します。

 

【ニュースの概要】

東京、さいたまで2件の裁判員裁判が行われましたが、8月3日に行われた東京地裁の裁判員の選任手続きでは、出席義務のある49人のうち2人が呼び出しに応じず、また、さいたま地裁では、同月10日、候補者44人中3人が選任手続きに出席しませんでした。裁判員候補者として呼出を受けたにもかかわらず、正当な理由もなく呼出に応じないと、10万円の過料に処せられることがあります。ただ、この過料は刑事罰ではなく、実際に過料を科すか否かは担当裁判官が判断することとされており、「正当な理由」の基準についても特にルールはありません。これら2件については、現在までのところ、過料の判断はなされていないようです。

 

【法律上の問題】

(1)「裁判員制度」とは

「裁判員制度」とは、国民が刑事裁判に参加して、被告人が有罪かどうか、有罪の場合、どのような刑に処するのかを裁判官と一緒に決める制度です。原則として、6人の裁判員と3人の裁判官が審理に出席し、評議を行い、判決を言い渡します。

 

(2)裁判員の選出方法

裁判員は、次のような流れで選ばれます。

1:候補者名簿の作成⇒2:候補者への通知・調査票の送付⇒3:事件ごとに50人から70人程度の候補者がくじで選定⇒4:呼出状・質問票の送付⇒5:選任手続き⇒6:6人の裁判員の選任

 

(3)裁判員候補者の辞退

裁判員候補者は、原則として辞退できません。ただし、法令で次のような辞退理由が定められていて、これらに該当すると裁判所に認められれば、辞退することができます。

・      70歳以上の人

・      地方公共団体の議会の議員

・      学生・生徒

・      5年以内に裁判員などの職務に従事した人

・      やむを得ない理由があって、裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人

 

【ベンチャー企業として】

(1)社長に裁判員候補の通知が来たら・・・

全従業員10名あまりのA社の社長の元に裁判員候補の通知がきました。ところが、呼出の日は、社長が社運を賭けた重要なプレゼンを取引先に行う予定の日と重なっています。この場合、社長は裁判員候補者を辞退することができるでしょうか。

 

原則として、「仕事が忙しい。」というだけでは、辞退できません。ただし、とても重要な仕事があり、自分で処理しなければ、事業に著しい損害が生じる場合や、裁判員になることにより、周囲の人に経済上の重大な不利益が生じるような場合には、辞退が認められます。候補者宛てに送付される調査票や質問状に辞退希望の有無やその理由について記載する欄がありますので、これらを利用して辞退希望の申し出をすることができます。実際に辞退が認められるかどうかは、事件を担当する裁判所が、具体的な事情を聴いたうえで、次のような観点から判断することになっています。

 

・      裁判員として職務に従事する期間

・      事業所の規模

・      担当職務についての代替性

・      予定される仕事の日時の変更可能性

・      事業への影響

 

(2)従業員に通知が来たら・・・

辞退の条件は、社長の場合と同様です。ただ、本人が「裁判員としての職務を果たしたい。」と希望した場合、会社が業務命令で辞退させることはできません。裁判員としての職務は「公の職務」にあたります。労働基準法第7条では、使用者は労働者が公の職務の執行のために必要な時間を請求した場合においては、その請求を拒んではならないと規定されています。違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

 

(3)就業規則等の整備の必要性

自社の従業員に裁判員候補の通知が来た場合に備えて、従業員が裁判員の職務で会社を休むことについて就業規則等で定めておくことが必要と思われます。就業規則では次のように定めて、詳細については「裁判員休暇規程」に規程することがよいでしょう。

(就業規則の改定例)

第○条

1  当社は、従業員が裁判員候補者または裁判員等に選任された場合には、その者の申し出により、特別休暇を与える。

2 前項の特別休暇は、通常の給与を支給(あるいは、無給と)する。

3 第1項の休暇の対象者、期間、手続き等は、別に定める「裁判員休暇規程」による。

 

裁判員の職務で会社を休む日を有給とするか無給とするかは、法律では特に定められておらず、会社の判断に委ねられています。裁判員等には日当が支払われますので、その日当分を控除した金額を支払うとすることも可能です。「裁判員規程」に規程しておくべき事項としては、給与に関する事項のほか、裁判員に選任された場合の会社への報告や休暇取得手続き、裁判員選任手続き・公判手続きに関する報告、任務終了後の措置、守秘義務や情報管理に関する事項、休暇期間の取扱に関する事項などが挙げられます。

「裁判員休暇規程」の作成に当たっては、裁判員休暇に関するモデル規程などを参考にされるとよいでしょう。社会保険労務士や弁護士に相談することも一案です。

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