事業継承:Vol.2 親族外継承のポイント・進め方

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

●はじめに

前回は中小企業では一般的である親族内継承についてご説明しました。しかし、最近では「事業を継承してくれる親族がいない」「親の事業は継承したくない」といった非自発的理由だけでなく、「親族のほかに有能な従業員がいれば、むしろ彼らに事業を継承してもらいたい」といった自発的理由から親族外継承を選択するケースが増えています。今回は、親族外継承のポイント・進め方についてご説明します。

●親族内継承のメリット・デメリット

田舎イメージ1 (メリット)
・後継者の選択肢が広がる
「後継者は親族から」と最初から決めてしまうと、その親族に後継者=経営者としての資質が備わっていなかった場合には、折角の事業継承も水の泡となってしまいます。将来にわたって、経営者一族で会社を支配していきたいという気持ちも理解できますが、会社は経営者一族だけのものではありません。他人である従業員を雇用している限り、これら従業員の生活を背負っているわけであり、事業継承の失敗により従業員を路頭に迷わすようなことがあってはいけません。その点、親族外継承であれば、会社内外から広く後継者を選ぶことができます。

・経営の一体化を保てる
親族外継承としての後継者として、まず考えられるのが、長年勤務してきた役員や従業員です。これらの者は会社が好況の時も不況の時も、まさに苦楽を共にしてきた戦友のようなもので、かつ、製造・営業などといった実際の現場を知っているだけに、社内からの理解も得られやすく、長年引き続いてきた経営の一体性を保つことが可能となります。

(デメリット)
・経営者としての資質が備わっていないケースが多い
戦後の高度経済成長期を生き抜いてきただけあって、中小企業の経営者はワンマン経営者であることが多いです。ワンマン経営者はたいていトップダウンで経営判断することが多いので、そのようなワンマン経営者の下で働いてきた役員や従業員には「とにかく社長に嫌われないようにしよう」と経営者の顔色をうかがいながら仕事をしてきた傾向が多く見られます。いわゆる「イエスマン」が良しとされる風土では、後継者候補になるという強い意志を持つ人材は育ちにくいとされています。

・資金力が不足している
親族内継承と異なり、親族外継承の場合には自社株式といった資本面の継承が大きな問題となります。経営面だけ継承させて、資本面の継承は行わないといった選択肢も考えられますが、親族外の後継者のモチベーション維持・向上のためにも、資本面の継承も行うべきでしょう。親族外の後継者が資本面の継承を行う場合、基本的には経営者から自社株式を買い取る必要があります。しかし、親族外の後継者には自社株式を買い取る資金を有していないケースが多いので、おのずと資金力に不安が生じてきます。
 

田舎イメージ2

●親族外継承の進め方

 1.後継者候補の選定
親族内承継であれば、社内・社外からも理解が得られやすいということは前回ご説明しました。しかし、親族外継承の場合は必ずしもそうはいきません。社内においては「その責任の重さから、自分が後継者候補になることは望まないが、同僚が後継者候補になると、それはそれで面白くない」という感情が芽生え、反発を招いたりするケースが見受けられます。また、取引先などといった社外からも予想外のクレームがつくこともしばしばあります。このように、経営者から見た後継者候補の印象と経営者以外の目から見た後継者候補の印象が異なるケースがあります。そうならないためにも、親族外の役員や従業員などから後継者を選定するのであれば、できるだけ早い段階で、後継者育成に取り組み、それにあわせて社内・社外にその旨を周知徹底させることが重要です。特に、親族外承継により会社がバラバラにならないよう、会社一丸となってサポートする体制を構築する必要があります。

2.経営・財務の透明化
実際には経営者個人が利用している会社名義の高級外国車やゴルフ会員権など、所有と経営が分離されていない中小企業においては、経営者の財産と会社の財産が明確に線引きされていないことがあります。後継者本人からのコンセンサスを得るのは当然ですが、社内・社外からの理解を得るためには、後継者育成だけではなく、会社経営に直接必要のない資産の整理などを積極的に行い、経営・財務の透明化を図ることが必要不可欠です。

3.資金面のサポート
親族外継承の場合、後継者は経営者の所有する自社株式を買い取ることとなります。非上場株式の評価方法には純資産方式、DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)方式など、いくつかありますが、税理士等の専門家の協力を得ながら自社株式の評価額を算定する必要があります。その上で買取価額を決定することとなりますが、親族外の後継者は資金力に乏しく、経営者のすべての株式を買い取ることができないことが大半です。その場合には、株式買取資金として役員給与を増額するなどの方策を検討する必要があります。また、多くの中小企業の場合、金融機関から融資を受けるに際して、経営者自身の個人保証や経営者の自宅などの個人財産を担保として差し入れていることがあります。そのため、後継者が債務保証できる額まで会社の借入金を減らすなど、事前に金融機関と交渉するなどの対策が必要です。

◆事業継承でよくあるトラブル。困ったケース。その2

 (親族外継承)
地方で建設業を営むB社の経営者には子息がいましたが、大学進学で上京した後、東京の企業に就職し、子息本人に会社を継ぐ意思がないことが明らかだったため、経営者は早くから親族外継承を検討していました。幸い、有能な従業員がいたことから、この者を後継者候補として、後継者教育を実行してきました。後継者教育も一とおり済んだ数年後、いよいよ経営者交代という時期になって、問題が発生しました。地元金融機関から「自社株式も後継者に譲り渡すべき」とのアドバイスを受けたものの、後継者には株式を買い取るだけの財力がなかったのです。さらに、経営者は地元で有数の名主だったために田畑などを多く所有し、その大半は会社で融資を受けるための担保となっていました。この二つの問題をクリアするために、株式買取資金確保のために役員給与を増額し、さらに担保については、経営者が代表権のない会長に就任することにより地元金融機関の了承を得ることができました。個人資産を担保に差し入れていることの多い中小企業にあっては、経営面の継承だけでなく、資本面の継承についても早めに対応策を検討する必要があるのです。

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