「買える価格」と「買いたくなる価格」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
「値段を上げる」 より「下げる」と言われるほうが嬉しいもの。料金に関する事柄をどう伝えるか。言い方ひとつで顧客の満足度は大きく変わってくる。

値下げをしない、あるネットショップ

  映像機器関連商品を ネット販売している知人からこんな話を聞きました。「最近、原材料の価格がすごく安くなったんです。なので、やろうと思えば商品の販売価格を大幅に下げる こともできるんですよね…」と。でも、彼はそれを実行していません。しなくて正解。彼自身がその理由を説明をしてくれました。

 「ウチの製 品は家庭で映像を楽しむための設備なので、それなりの金額になるし、お客さんにしてみれば、一生に一回買えばいいものなんです。だからお客さんは購入前に よく商品研究をするし、他社製品との比較も怠りません。どんな材質やどんな機能だといくらくらいになるのか、たいがいご存じのはず。つまり相場観が形成さ れているわけです。そこにいきなり価格を下げたものを投入すれば、かえって不信を招きかねませんよね。お客さんにしてみれば、思い切って買う以上、安物買 いの銭失いにはなりたくないと思うでしょう。だから一定の高値を維持したほうが結局は売れるんです」

 

「その価値を、いくらで手に入れたのか」

  狙った相手が「買える価格」であることと同時に、 「買いたくなる価格」であること。私は、これが大事だと何度も訴えてきました。知人の話がそれを実証しています。安ければいいというものではないのです。 顧客はその商品やサービスに対価を払うことで、どのような満足を手に入れようとしているのか。そこを考えないといけません。

 「よそより安 く買えた。得したな」。そういう満足もあります。「自分はこんなに高いものを買えるようになったんだ。自分も頑張ったよなあ」。そういう満足もあります。 まだまだいろいろな種類の満足があるでしょう。

 事業プランを作成するときには、その事業が市場や顧客にどのような喜びをもたらすのかをよ く考える必要があります。「こういう不満を解決する」「こういう欲求を実現する」「こういう不便を解消する」などと。ですが、それだけでは不十分なので す。買い手の満足とは、「その商品やサービスがもたらしてくれる喜びを、いくらで手に入れたか」によって変わるからです。ターゲットの意向をよく調べ、商 品やサービスの性質をよく理解すれば、その価格は他社より安いほうがいいのか、あるいはむしろ高いくらいがいいのか、おのずと見えてくるはずです。

 

キャンペーンで周辺費用をサービス

 さて、知人の話に戻ります。結局彼は定価を変更しませんで した。つまり原価は下がっているのに小売価格は下がっていないということです。ということは、粗利益が増えている。ありていに言えば、儲かってしまってい るのです。

 それはラッキーだ。めでたし、めでたし。で、話を終わらせていいと思いますか?当然ダメですよね。計画以上に利益が出ているの であれば、それを効果的に投資するのが起業家の任務です。私は知人からその話を聞いた直後に彼のサイトを訪ねてみました。「おおっ」。思わず声を上げてし まいました。さすが!やはり彼は、やるべきことをきっちりやっていたのです。

 「開店○周年記念キャンペーン!」と銘打って、「消費税分 サービス(要するに5%引き)、送料無料、代引き手数料無料」を実行していたのです。製品本体の価格を下げず、周辺コストを顧客に変わって彼のほうで負担 すると言っているわけですね。

 すでに書いたように、製品には市場適正価格があります。だから下げることで売れなくなってしまう危険性も高 いのです。加えて原材料費が下がったとはいえ、さまざまな要因で今後またそれが高騰する危険性もあるでしょう。そうなったときにあわてて値上げをしてそれが市 場に通用するかどうか…。だから本体価格は触らず、「キャンペーン」という方法で期間を限定しながら、顧客が支払うトータルの費用を安くするという販売促 進策を彼は選択したのです。ひとりの顧客から得た計画以上の利益を、新たな顧客を獲得するためのコストとして投入する。実に適切な経営判断です。

 

本体価格以外の費用も「価格」

 今度は違う角度で上記の知人の話を見てみましょう。「いくらで 売るか」は、製品本体の価格だけを指すのではないことがわかりますよね。あらためて商取引によって発生する支払い項目を列記してみます。売り手、買い手、 どちらかが負担するかは別として。

 ・本体価格
 ・消費税やその他各種税
 ・収入印紙などの租税
 ・送料
  ・代引き手数料
 ・振込手数料
 ・クレジットカード手数料
 ・分割払いの場合の金利

 もちろん販売形態(取引形 態)や取引額によっては該当しない項目もあります。が、「なんだかんだ」と付加していれば、例えば定価9万8000円の商品やサービスも、支払い総額は 10万円を突破するということです。これらの周辺費用をどう扱うのかも価格戦略の重要な事項です。どの費用を誰が負担するのか。あるいは、どの費用を価格 の外にだし、どの費用を価格の中に込めるのか、など。同業種・異業種にかかわらず、さまざまな先行ケースをよく研究して決定する必要があります。

 

魅力的な価格なら、しっかり伝えろ!

 そして次は、費用に関する事柄をどう市場や顧客に伝える のかです。総額での魅力を訴求するのか、あるいはあくまで本体価格だけで訴求するのか。ないしは、知人のショップのように、「本体価格以外にも費用がかか ります。でも、特別にそれらは私のほうで払います」と訴えるのか、など。

 いずれを選択するにしても、それを「どう顧客に魅力的に伝える か」を考え抜かねばなりません。価格戦略はプロモーション戦略と密接な関係にあるのです。魅力的な価格設定も魅力的なキャンペーン展開も、それが明確に、 かつ確実に買い手に伝わらなければ意味をなさないわけですから。

 

ものの言い方ひ とつで損得も逆転!?

  こんな実例があります。飲食店の話。東京・渋谷のとある居酒屋のレジには、「現金のお客様は御会計から10%引 かせていただきます」という貼り紙が貼ってあります。一方、東京・新宿のとある居酒屋には、「クレジットカードをご利用の場合は、料金の10%を加算させ ていただきます」という貼り紙がありました。

 最近はクレジットカードが利用できる飲食店も多くなり、ほとんどの店は現金でもカードでも同 一価格でサービスを提供しています。言うまでもないことですが、店側はカード手数料を必要経費の中に折り込んで収支計画を立てているわけです。ところが、 上記のように、その部分の費用を価格と分けて顧客に提示するケースもあるのです。

 では問題です。カードを使わなければ安くすると言ってい る渋谷の店と、カードを使うと高くすると言っている新宿の店とでは、どっちが顧客にとっては得なのでしょう?

 高くすると言っている新宿の 居酒屋のほうが実は得なのです。例えば、定価900円の料理と1000円の料理で対比してみましょう。新宿の場合、現金で払うと900円ですが、カードで 払うと990円になります。900円+その10%ですから。一方、渋谷のほうは現金だと900円ですが、カードだと1000円になるのです。1000円- その10%ですから。

 事実はそういうことです。ところが印象としては、本来割高なはずの渋谷の店のほうが良いように感じます。客は「値段 を上げる」と言われるより「下げる」と言われるほうが嬉しいものですから。「料金(費用)に関する事柄をどう伝えるか」。言い方ひとつで顧客の満足度は大 きく変わるということです。「そんな細かいことは起業してから考えればいい」なんて思わず、事業プラン作成の段階でしっかり考えておきましょう。

 

価格決定の難しさから逃げるな!

 事業計画を立てるためには、 「誰に売るか」(標的市場)を設定した上で、大別して4つの戦略を立案する必要があります。「何を売るか」(商品戦略)、「いくらで売るか」(価格戦 略)、「どうやって届けるか」(流通戦略)、「どうやって知らせるか」(プロモーション戦略)。この4つです。

 そのなかの価格戦略に関す る話を長らく書いてきたのは、非情に重要な戦略項目であるにもかかわらず、多くの人が無頓着だったり、曖昧だったり、間違っていたり、また、「よくわから ない。難しい(だから適当に決める)」と、目をそらしたりするからです。価格戦略の重要さを認識していただき、さらには価格決定のための視点と戦略展開方 法を体得してほしいと思います。

 もちろん価格戦略に関する検討事項はまだまだあります。例えば卸売価格と小売価格の差をどうすればいいの か。あるいは対価の回収方法も要検討項目です。前払いか後払いか、一括か分割か、現金か各種振込か、カード利用は可か不可か、など。また掛け売りをする場 合(請求書などを発行して後日、代金を回収する方法)のルール決めも重要です。

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