Vol.6「商標だけでなく特許等も使った総合力でブランドを構築しよう」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

 米国アップル社は、中国国内で現地企業に提起された“iPad”の商標権使用に絡む訴訟において、6000万ドル(約48億円)の和解金を支払うことで合意しました。いまや世界最大の時価総額を誇る米国アップル社ですら、知的財産の問題には手を焼いています。

 ちなみに、なぜiPadを開発した米国アップル社が自社製品であるiPadを使用するために多額の和解金を支払わなければならない事態になったかというと、米国アップル社より先に現地企業が現地で“iPad”の商標登録を行なったことによります。つまり、“iPad”の商標権は現地企業にあると主張されてしまったのです。

 それに対して米国アップル社は、商標登録を無効とする訴えを起こしたのですが、商標登録出願の時期が早いほうに登録の優先権があるとする“先願主義”(出願の早い者勝ち)を理由に深セン市中級人民法院(地裁)で敗訴してしまいました。米国アップル社はこれを不服として広東省高級人民法院(高裁)で審理が行われている最中、当局のススメにより現地企業と和解することでブランドを守ったと言えます。

 今回のコラムでは、商標だけでなく特許等も使った総合力でブランドを構築・守る方法について解説します。

そもそも「ブランドとはなに?」

 ところで「ブランド」と一言でいっても、その定義は実は難しいです。Wikipediaによると、「ブランド」とは、「ある財・サービスを、他の同カテゴリーの財やサービスと区別するためのあらゆる概念」とあります。うーん、この説明でも難しいですね。例えば、信頼感、高級感、最高の技術、・・・といったものでしょうか。

 ブランド、と聞いてすぐに思い出すのは、ブランド品です。ブランド品として代表的なものは、バッグや衣服の分野かもしれませんが、車や化粧品のような商品からレストランのようなサービスまで、あらゆる分野で見受けられます。
 そして、ブランド品は、他社の商品よりも高額で販売することができます。

 ブランド力の有無が売り上げを左右するとなると、ブランド力を何とかして高め、その価値を維持したくなります。
 

ブランド保護は商標登録からスタート

 ところで、ブランド品の提供元の名称やロゴを見たり聞いたりしただけで、そこが提供する商品・サービスはきっと素晴らしいものに違いない、というふうに想像することはございませんでしょうか。商品名もそうかもしれません。

 つまり、会社名や商品名、サービス名(ロゴも)が、ブランドの入り口になります。

 そのため、ブランドが有名になってくると、そのブランドの影響力を拝借して商売をしたいと思う輩が出てきます。

 先ほどの「iPad」問題や日本の著名な地名や商品名が勝手に商標登録されてしまう、というのが一例です。

 でも、そんなことを許してしまえば、せっかくのブランド力が毀損してしまいます。

 そこで、中国での権利の問題はともかく、模倣行為を勝手にさせないために前もって商標登録をしておき、勝手に模倣する者に対して権利行使も辞さない態度で対応しています。

 このように、ブランド保護と登録商標というのは深い関係があります。
 

なぜ、その「ブランド」は支持されているのか?

 ところで、ブランド品に接したとき、なぜ、私たちは信頼感や高級感といったものを感じるのでしょうか。

 被服や身飾品であれば、そのデザインの素晴らしさやしっかりした縫製、素材のよさ、といった商品が持つ特性がそうさせるのかもしれません。

 また、車や家電製品であれば、商品のデザインだけでなく、性能といった技術的な要素も入ってくるでしょう。

 すべてのブランド品が最初からブランド力があったわけではございません。技術やデザインという商品・サービス力があったからこそ、顧客に支持され、やがてブランド力が形成されてきたのです。
 

ブランドを構築して守るために商標権以外にとった手法とは?

 このような商品・サービス力は、商標権だけでは守りきれません。技術的なことは特許権、デザインに関しては意匠権が保護対象となるからです。

 では、特許権や意匠権を組み合わせたブランド形成とはどういったものなのでしょうか。

 例えば、米国アップル社や英国ダイソン社は、それぞれパソコンや掃除機といった製品でブランド力を有しています。彼らは、性能の良さだけでなく、使いやすく見た目もクールなデザインを持ち合わせた製品を展開しています。そのため、米国アップル社に対しては「信者」と呼ばれる熱烈な支持者がいます。

 これらの製品は、特許権や意匠権で保護されています。そして彼らはオンリーワンの技術やデザインを構築するとともに、それらが他社に真似されないように特許権や意匠権を取得して展開することによって、ブランドを形成しその価値を高める努力をしています。

 ブランド価値は、技術やデザインを差別化できてこそ高めることができます。

 このように商標権だけでなく、特許権や意匠権も使って知的財産権の総合力でブランドを保護・維持します。

 日本では、例えば、愛知県に愛知株式会社という会社があります。

 この会社は、教育施設家具、会館・庁舎・体育館などの公共施設家具、ホテル・劇場・ホールなどの民間施設家具を製造販売しています。

 同社は、「集いと学び空間」をデザインする、というポリシーのもと、空間を意識した製品デザインにまとめあげ、他社と差別化して競争を優位にしようとしています。その成果が、グッドデザイン賞144点、保有する特許権は国内38件/海外5件、意匠登録も国内217件/海外31件(同社ホームページより)という実績に表れています。

 これらの実績が客先への信頼感を醸成してブランド力を高めています。

 また、三惠工業株式会社は、椅子を中心とする家具の製造販売を行う会社ですが、この会社も、特許権や意匠権を活用して事業を展開しています。

 最近ではエコプロダクツ市場の創出に向けた椅子作りに取り組むため、環境にやさしい、子供にやさしいデザインをコンセプトにした新ブランド「HECMEC」を立ち上げました。
そして、このブランドを守るために、海外も含めた特許や意匠、商標の登録を進めています。

オンリーワンからナンバーワンへ

 自社商品・サービスを差別化するためにあらゆる努力をした結果、オンリーワンになれれば特許権等は不要か、というとそんなことはございません。

 ブランドを維持する努力をしないと、たちまちその地位は危うくなります。

 ブランド力を強化、維持するためには、常に技術やデザインを磨くとともに、権利侵害しようとする他者に対しては断固として戦う姿勢が必要です。これらの活動を継続することで、やがてナンバーワンとなって高いブランド力を身に着けることができるでしょう。

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