12:00 パネルディスカッション

「日本企業が向き合うべき、オープン・イノベーションの実際」
~グローバルリーディング企業のベンチャー企業との付き合い方とは~

齋藤 ウィリアム 浩幸氏

齋藤 ウィリアム 浩幸氏

株式会社インテカー 代表取締役社長/内閣府本府参与 科学技術・IT戦略担当

加藤 崇氏

加藤 崇氏

株式会社加藤崇事務所 代表取締役

中垣 徹二郎氏

中垣 徹二郎氏

Draper Nexus Venture Partners Managing Director

 皆さんこんにちは。今日コーディネーターを務めさせて頂くDraperNexusの中垣と申します。今日は日本企業が向き合うべき、オープン・イノベーションの実際ということで、僕自身も楽しみにしていたんですけれども、MicrosoftとGoogleという世界を代表する、アメリカを代表する企業に会社を売却した、ご自身で創業されて、会社を売却されたという経験を持つ、二人に来て頂きまして、まさにベンチャーの現場もですけど、今日のテーマである大企業がどうやってベンチャーと向き合っていくかというお話をぜひ、まさに現場にいた方々の話を交えながらさせて頂きたいと思ってます。時間が許せば最後の方に皆さんのご質問を受けたいと思います。

 まずは自己紹介から。

加藤

 まず、ちょっと簡単なキャリアですけど、リスクと向き合うキャリアという題名で自己紹介したいと思います。元々僕は、東京三菱銀行出身です。大学では物理を専攻していまして、物理を専攻したということが後々の僕のキャリアを形作る上で非常に役に立った、もしくは今もハイテクのベンチャーをやるにあたっては、興味関心という意味で非常に役に立ったという風に思っています。その後、縁があってファイナンスの世界に入っていくことになるんですけれども、そのファイナンスの世界では飽き足りず、MBA取って帰ってきたりしましたが、最終的には何をやったかというと、潰れそうな会社に入っていって立て直す、っていう道場破りみたいなことを3社やりました。ベンチャーだったときもあるし、大きなサイズの外資、サービス・インダストリーであったりすることもある訳ですけど。それをコンサルティングみたいな形で見るんではなく、生身で、中に入っていって従業員の人と話し、人の間を縫って、頭を下げ、靴底をすり減らすということを結構やりました。それが非常にいい影響を与えていて、最終的には独立しました。ある程度、腕もついたから独立しようということで加藤事務所というものを作って、一番最初にやったのがSCHAFTという会社、人型ロボットの会社をやり、さらに挑戦ということで、また年内を目処に、また新しいハイテクのベンチャーを立ち上げようと思っています。

 僕の名前はSCHAFTといっしょに出ることが多いので、SCHAFTを知らない人のために少しお話をしておきます。SCHAFTというのは東京大学の人型ロボットの研究をやっていた研究室から出た二人の助教、と言っても若い方ですけど、その彼らが大学をスピンアウトしてやりたいんだと僕のところに最初に相談にきたというところから始まりました。その時、僕は加藤事務所で独立していたので、非常にやる気のある若者で、かつ世界を代表する技術だということで協力することを願い出て、共同創業者という形で入りました。

 会社を一緒に作ったんですけれど、シードマネーを集めようと思っても、なかなかやっぱり日本のマーケットってシードマネーを出すっていうのはなかなか難しいので、集まらなかったんですね。そこで、今活躍されているTomyKこと、元ACCESSの創業者の鎌田さんからエンジェルマネーを入れてもらったり、僕がアドバイザーをやったところからのお金が入ったりして、なんとかSCHAFTという会社の形を作りました。

 ただ、その後の資金調達も汲々としまして、結局どこからお金を調達したかというと、アメリカの国防総省、知ってる人は知ってるDARPAという機関ですね。非常に先端的なことをやってる、その国防総省からお金を入れてもらい、最終的にはGoogleに売却したという感じです。Googleに売ったのは、去年の11月です。大変大きなニュースになりました。アメリカの会社になっていたことで、これが色んな物議をかもすことになりました。最近は本を書いたり講演をやったりして、ベンチャーの成功モデルって何なんだろうと世の中に伝播させようと思ってやってます。あと、ハイテクベンチャーをやっています。今年また1社立ち上げるので、それをまた大きくできたらいいなと思って活動しています。

 齋藤と申します。よろしくお願いします。私は齋藤ウィリアム浩幸氏という名前の通り、生まれ育ったのはアメリカなんですけれども、最初は医者になって、そのあとにベンチャーをやるんですが、色んな失敗を重ねて、6回くらい死にそうになった結果、指紋認証がヒット商品として立ち上がった。指紋認証の会社から横展開して、情報セキュリティなども手がけました。結果として、医学を全然活かせないIT産業の方でベンチャーを立ち上げたというのが、私のヒストリーです。
 皆さんご存知のとおり、インターネットのサービスでは不可欠なパスワードですが、なかなか覚えきれないという課題があります。当時、ビルゲイツが、ちょうど14年くらい前ですが、パスワードを人間が覚えているのは無理があるということで、これからは生体認証とか情報セキュリティが大事になるということで、会社を買いたいと言って来ました。そうして会社を売却して、それから日本に来て活動しています。それはなぜかというと、ベンチャー立ち上げる時に、色んな日本の企業から、私がまだ10代の時に支援して頂いたので、今度はその恩返しとして、次の世代を支援するということで、9年前に日本に来ました。
 どういう活動をしているかというと、毎日色んな所を飛び回っているんですけれども、主にベンチャーキャピタリトとして活動しています。Microsoftに頂いた資金を使って、日本のベンチャーに出資して、今は19の会社に出資してまして、15社が女性が創業されている企業です。
それと日本の大学でいくつかアントレプレナーシップの授業を教えてます。
 それをやりながら、政府の方では、主に経済省、文科省、そして今は内閣府の方でも色んなテーマでIT、アントレプレナーシップ、イノベーション、サイバーセキュリティというテーマでアドバイスをしつつ、記事を書いたりということで、主に何をしているかとアントレプレナーを支援しています。後で話しをしますけれども、私としてはアントレプレナーという定義多少違うんですけれど、日本でどうもう一回研究するというのが一番のキーポイントかなと思います。

中垣

 最後に少しだけ私の自己紹介をさせてください。
 DraperNexusというベンチャーキャピタルをやらせていただいてます。18年にわたってベンチャーキャピタルをずっと経験してきたんですけれども、僕は元々日本とアジアを投資している会社で、日本を中心に投資をしていたんですが、自分自身、国境を越えていくようなグローバルなベンチャーをもっともっとお手伝いしたい、ということで今、シリコンバレーと日本を行ったり来たりして、日米での投資活動をさせて頂いてます。
 そしてDraperNexusというのは、DFJというアメリカでも最大手と言われているようなベンチャーキャピタルのグループに属していて、有名な会社を支援してきたベンチャーキャピタルなんですけれども、どうやってアントレプレナーを育てていくかとか、グローバルなベンチャーを育てようということを教えて頂きながら、加えて、僕は日本人ですので、日米をしっかりつないで、日本の会社を少しでも元気にしたい、日本のベンチャーに少しでもそういうものを植え付けられればということで、アントレプレナーシップと大企業のオープンイノベーションまたグローバリゼーションというテーマを、かなり欲張りなんですけれども、挑戦してやらせて頂いています。
 今日このコーディネーターをやらせていただいているのも、ファンド活動の中でベンチャーだけじゃなくて事業会社の方々とのやり取りが非常に多くなっておりますから、そういう観点でこういう場に呼んで頂けたのかなと思います。

 自己紹介はこれくらいにして、セッションに入っていきたいと思うんですが、まずはオープンイノベーションの実際ということで、日本企業の向き合うべきオープンイノベーションということで、日本もこの数年、非常にベンチャー・スタートアップに光が当たったり、そこと事業会社が一緒にコラボレーションしていこうみたいなことがどんどん出てきています。
 それが今日のイベントにも現れてると思うんですけれども、まだまだそうは言っても足りてないものがあるんじゃないかというところで、まさに日本とアメリカを両方見てこられた齋藤さんから、その辺りに関して今感じてらっしゃることとかあれば。

 私はアメリカでだけではなく、ベンチャーの支援をシンガポールとかそこら辺でもずっと見てきていますが、日本の場合は頑張ってない訳でもないし、イノベーションがない訳でもない。結局、実行力として、ものにする、ちゃんと宣伝してマーケットする、そしてグローバルにして・・・というところで、弱い部分があるんじゃないかと感じます。毎週いろいろなビジネスプランを見るのですが、日本の国内マーケットでグローバルの視点を持ってグローバルと戦っていくという視点で、日本国内でのプランと、グローバルのプランをわけて考えているというように感じます。
 ただ、イノベーションのアイディアと、お金の部分では、特に日本は不自由をしないと思いますね。それをどう実行されて、どうグローバルに認められるというところが、私の投資する理念からしては欠けてるんじゃないかと思います。特にこの数年間はよく立ち上がってる感じはしてきます。

 ベンチャーの立場にいた加藤さんとして何か思うところがあれば。

 大企業が最近、CVCを立ち上げましたとか、アクセラレーター・プログラムを始めました、という話しは耳に入ってきています。ただ、僕の感覚からすると、本当にベンチャーのことが分かっているのかな、と疑問に思っています。厳しいかもしれないですけど。
 それってやっぱり、オープンイノベーションカンファレンスって言われると何となくかっこいいけれども、やっぱり抽象的な言葉って危ないと思うんですよ。
 本当にオープンイノベーションって言っちゃうとかっこいいから、皆、じゃあうちの会社でもオープンイノベーション事業部作ろう、とかオープンイノベーションなんとかかんとか推進室やろう、とか言う話しになっちゃうんだけれども、やっぱりちょっと抽象的なものとして、本当にリアリティがあるのか、ちょっと疑問に思う。
 例えば、皆からすると戦うことみたいな話って、空手とケンカが同じように見えるときってあると思うんです。言葉で言うと同じなんですけど、本当に空手を習っている人とただのケンカ師みたいな人ってのは全然違う。つまり、ケンカで負けた、いじめられたから、空手を習おうっていう人と、空手を習ってどんどんテクニカルなことを一生懸命やっていく人がいて、行き着く先ってやっぱり空手とケンカって全然違う訳です。実際、寸止めの空手を習えば、ケンカに勝てるかっていうとそうではない。その辺りの違いっていうのがすごくあって、日本の大企業が形を作っていくのはとても大切だけれども、まだまだ空調の効いた体育館で、寸止め空手をやっているような感じがする。ベンチャーってのは成功より、感激であったり、爆発であったり、見通しであったり、形式論とは違うところが多分にあると思うんで。やればやるほど違うところが出てくるっていう、危機感みたいなものは感じています。
 日本の事業会社でいえば、圧倒的に実践が足りないということです。
 頭のいい人は中にすごくいっぱいいるんです。だけど外に出て戦うってことをやらないで年を取っちゃうと、これはこれで頭の良さが活きなかったりする。それはありますね。

 そうは言いながらも、なんらかのオープンイノベーションとかベンチャーとのコラボレーションをやろうというので、今日お集りの方もいらっしゃると思うんですけど、斉藤さんに伺いたいのは、まさにそういう時に、事業会社はどんなところから始めればいいと思いますか。

 まず、さっきの質問の補足なんですけれども。イノベーションというのがかっこいい言葉のように聞こえるんですけれども、気をつけなければいけないのが、その定義の問題があって、古い定義でイノベーションっていう場合がよくあるんです。
 結局、今のイノベーションていうのは、科学技術とかの世界だけではないということですね。例えばiPhone。携帯電話の作りっていうのは、日本とアメリカで変わらない。むしろ日本の方が優れているんですけれども、イノベーションの定義が変わってきているのが、それが売れる売れないっていう差が出てくるんですね。
 何の差かというと、科学技術だけではなく、デザイン力。そういう方向からのイノベーションっていうのが、世の中を変えていくベンチャーのポイントと思うんです。
 日本の場合は、教育上、理系と文系を分けてしまう。特に高校くらいで分けてしまった結果、それを別の道を辿って、そして社会人になって戻って一緒に仕事をする。結果、イノベーションが難しくなっている。それをベンチャーに繋げていくと、同じく優秀な学者さんとか、研究者はいるんですけど、それが理系に頼りすぎて、マーケティングとか営業とか、実際グローバルに出て行く文系の部分が、不足している。結果、アントレプレナーシップもイノベーションもなかなか成り立たないというところを感じます。大企業の方で面白い技術を集めてやろうということでは不十分ですね。

 斉藤さんの話で思い出したんですけれども、欧米の会社ではCTOがチーフマーケティングオフィサーみたいなものを兼ねていて、いかにマーケットのニーズを吸い上げて、それを技術的にあらゆる分野に落とさせるっていうことをする。なかなかそういう話って日本では聞かないんですよね。

 そうですね。私がよく言うのは、アメリカって言うのは唯一、人しかないんですよ。アメリカの唯一の力って言うのは多様性だと思うんですよね。多様性の中で色んな人が集まって議論をする、というのがCTOもマーケティングの知識をもってたり、ファイナンスの知識を持ってるっていうのは、アメリカの多様性から生まれるものです。その多様性を日本のような国から生み出すのは難しいと思う。
 そういうことが分かった上ででは、どういう風に多様性のあるチームを作っていくかっていうのが日本のチャレンジだと思います。

 多様性という意味で、以前加藤さんとお話させていただいた時に、もっと外部の人を共有するべきではないかということを聞いたと思うんですけれど、例えばSCHAFTでGoogleとやり取りをした時にそれを痛感したというお話なんですが、その辺りをお聞かせいただけますか。

 やっぱり大企業って、僕もいたことがあるんで分かるんですけど、中から上がっていった人をすごく大切にしているし、生え抜き以外は全体の2割とか超えないようにしているような気がします。だからGoogleでは全然違うんだろうなって感覚は、理屈の話ではなく、肌感覚としてはあった。SCHAFTっていうのは、Googleが最終的にお金を出して買う訳ですけど、僕がその会社を売ったと思ってるのって、Googleっていうのはエンプティの名前だけであって、実際の交渉の矢面に立ったのって、Androidを作ったアンディ・ルービンなんですよね。彼がどこから来たかっていうと、元々はエンジニアで、自分で会社を2、3社、立ち上げているわけです。Dangerを起こして、売却して、Androidを起こして、またGoogleに売却するわけですよね。売却した後に、Googleに入って副社長として、今の形でAndroidを育てると。
 そうして7年勤めたその彼が、今度はロボット部門を立ち上げますと言って、それで買いにきたと。そのすばらしい多様性、それは人種の多様性ということだけではなくて、アントレプレナーと大企業の生え抜きの人達っていうもののバランス、それは圧倒的に日本に足りないものなのかなと思います。
 さきほどの斉藤さんの定義の話は非常に大事だと思います。僕もそうだと思っていて、よくある大企業っていう言葉に気をつけた方がいいと思っていると。日本で大企業っていうとすごくスタティックなイメージがあって、ところがシリコンバレーの大企業ってFacebookにしろGoogleにしろYahoo!にしろ、ものすごくダイナミックで、創業者の息が残っているじゃないですか。
 だからさっきの空手とケンカの話でいけば、すごいケンカ師が集まっているんですよ。20代で自分で0から1を立ち上げた連中が、今40代くらいになっていて、油がのってます。意思決定のスキルも違うし、例えば1兆円のバリュエーションを自分が作ったんだって気持ちがあるから、だったら俺は1兆円使ってもいいよね、ってそういう空気があると思うんですよ。

 Googleみたいな会社は、起業家を中に抱え込んでるっていうのが、すごい強さとして感じますよね。

 そこがすごいなと思うんですけど、例えばアンディ・ルービンと会った人は分かると思うんですけど、彼はすごくせっかちですよね。それは色んな意味で面白いことに飢えてる。イグジットしてお金も儲かったし、次行くかって感じで、次をやると思うんだけど、それでもGoogleに残るっていうのは、やっぱりGoogleが面白いんだと思うんですよ。大企業ってくくっていいかは別として、すごく面白い空気、自由度と大きな会社がエンプティなだけで、いわゆる大企業ではないよと。つまりベンチャーっていう感覚があって、だから彼は残ってても楽しかったんだと思うんですよ。だから残れたんじゃないかと。それは学ぶところがあるんじゃないかなと思うんです。

 逆にアンディ・ルービンはGoogleをスポンサーにして会社を興していると、そんな感じだと思いますよ、実際は。
 実際に斉藤さんはMicrosoftに売却するわけですけれども、ビルゲイツから何度もラブコールがあったっていうのを著書で拝見したんですけれども、その辺りのお話を少しお伺いできますか。

 加藤さんがいう通り、多様性って色んな意味があって、アメリカっていう国はやっぱりすごいなって思うのは、年齢は関係ないんです。年齢が関係ないっていうのが大きくて、私はまだ20代なのに、当時すでにビルゲイツはかなり有名人でしたから、そんなビルから電話があって口説かれて。ゲイツから最終的に口説かれた言葉というのが、自分でちっちゃい池で大きい魚を頑張ってるんじゃなくて、でかい海の中で動かした方が世の中を変えられるよ、というスピリットを伝えられたことが、私としては変わりました。実際チャンスを口だけではなく、いただくということ。それが私としては大きかった。

 今日は日本の大企業の皆さんもどういう風に動いて行こうかっていう中で、斉藤さんの著書を読ませていただいて、逆に印象的だったのが、Microsoftに売却する前、会社を大きくするタイミングでは、すごく日本の大企業とビジネスが多かったっていう話を聞いて、非常に興味深かったのでそこに何かヒントがあるんじゃないかと。

 私はたまたま、状況が状況で、恵まれているなと思っているんですけど。親が日本からこっちに移住して、私がアメリカで生まれた。アメリカのテレビを見ていると、今の中国のように、ジャパンバッシングばかりでした。それが日本人としてはすごい嬉しかった。日本ってかっこいいなって。それをやってるうちに、パソコンを色々いじっていて、日本語を上手く表示するのが、最初はかっこいいと思ってやっていたから、なんかこれで儲かるって知って、日本の企業と10代のうちにいろいろ仕事をやらせていただきました。今振り返ると、本当に迷惑をかけましたが。予算もなかったようなもので、納期もすぐ伸びてしまうし、迷惑かけたと思うのですが、日本の企業が私にチャンスを頂いたということを経験しているんですね。
 そういう経験もあり、次の世代への恩返しもあって、どう支援して、アントレプレナーのスピリッツを、どう取り戻していくかを、私は日本でミッションにしています。

 そういえば、先ほど加藤さんのお話で、日常経験とかスピード感とか、その辺っていうのは、逆にそういうリスクを現場が負うっていうのはあるんですかね。斉藤さんが会社を興された当時、10代の方がやってる会社と取引をするというのは、今ではすごくリスクあると思うのですが…

 すごいですよね。

 そこでミスがあったらっていうのはあったんですか。

 もともとは日本の企業もリスクティンキングっていうのはあったんだと思います。半導体の世界ナンバー2になったくらいの国ですから、リスクティンキングとかアントレプレナースピリットとか戦っていく気持ちはあったんです。まだ無くなっているということではないんですが、失われた20年ではないですが、だんだんネガティブスパイラルになって失われつつあるのかなと。もう一つ、これも定義の問題ですけど、失敗っていうのがすごい悪いことになっちゃってる。今日はイベントはオープンイノベーションがテーマですが、、私が言いたいのは、いきなりイノベーションって言うのはありません。イノベーションは必ず失敗が元で生まれているので、イノベーションやろう、でも失敗を少なくしようっていうのは、私は矛盾していると思う。失敗って言う言葉ではなく、経験っていう風に置き換えようかなって思うんですけど、今はイノベーションが生まれない環境になっていると思うのですが、もともと日本の企業はやれてましたから。アントレプレナー、未上場、中小企業クラスの会社と共同するっていうのは結構多くあったと思います。私のケースが珍しいということではなかったと思います。

 リスクを負わない、ミスをしない、それが評価されがちだ。組織っていうのはそうなんじゃないかなと何となく思ってしまうんですけど。

 まあそうですね。ただ私は学生にも言ってますけど、成功という言葉の反対は失敗ではないんですよ。何もしないということなんです。半分冗談で言うのが、日本の企業ではPDCAをよく使います。PDCAを使っている国って、日本くらいしか残ってないんですけど。ただ、PDCAじゃなくて結局PCばかり行ったり来たりしているっていう感じがするんですね。Plan、Checkばっかりみたいな。失敗を恐れずどうリスクを取って実行するか。イノベーションを本当にやるんだったら、失敗をどうやって反映するか、というのが、私は大事だと思うんです。
 ちょうど先週、世界経済フォーラムがあって、毎年世界の2500社のCEOにアンケートを出すんですね。アンケートの中で一番の悩みを一番聞くんです。今年、一番心配しているのがイノベーションができないことです。金融の問題とか、ユーロが崩壊するとか、そういうのじゃなくてイノベーションについていけないこと。イノベーションがナンバーワン。

 日本の企業も同じくイノベーションが一位なんですか?

 日本の企業はイノベーションがナンバーワンではなかったです。

 イノベーションを意識しながらも、欧米の企業はど真ん中に課題としておいていると。そこは同じ考えでも少し差があるのかもしれないですね。

 常に進化したいと。世の中の進化が早まっている中で常に競争に勝てるかっていうのが、イノベーションだっていうところなんでしょうね。

 少し話を切り替えさせていただいて、加藤さんに聞きたいんですけど、GoogleがSCHAFTを買収した時っていうのは、テレビ各局でニュースになりましたし、新聞でもすごかったと思うんですけど。日本にあったオフィスにも行きましたけど、日本の会社から投資を受けるとか、それこそ買収されるとか。そういう話ってありましたか?

 買収されるっていう話は全くなかったですね。これもオープンイノベーションカンファレンスなので参考になればと思って言えることなんですが、日本の大企業で皆さんが知っているようなところって、当然声をかけてくるわけなんですよ。まだ初期の頃に声をかけていて、その当時の僕ってまだナイーブだったんで。日本の大企業ってこういうすばらしい技術を見たら、すぐに支援の手を差し伸べてくれるはずだと。ある種の愛国心というものもあって、僕たちのことをきっと分かってくれるって思ってましたよね。
 ある大企業の新規事業開発部門がずいぶん一生懸命やってるって話を聞いたので行ったんですね。直接僕が行ったんじゃなくて社長が行ったんですけど、結局話を進めて行くと、駄目だって話になるんですよ。現場の課長か部長の面会の段階で、どうも興味なしという話で。人型ロボットなんてすぐマーケットになる訳ないじゃないか、ふざけんなと。多分そういう思いがあったんでしょうね。
 ただ僕がGoogleに売ってそれがニュースになった。たまたまその会社の経営トップとお話をする機会があったんです。その時に、「加藤さん、ロボットの商売どう思う」とかそんな話をしてまして。「なんで君、Googleに会社を売ったんだ」、「僕の会社に持ってきてくれれば、僕がすぐに市場メイキングして買ったのに」って。
 僕は何も言えなかったですよね。言わなかったんですよ。僕は一昨年、実は会社に来たんですよ、資金調達をしようと思った。ただ、あなたのところの現場の部長さんか課長さんか分からないけれども、ジャッジしたんだと。それはインプリケーションがあって、別に悪い話じゃなくて日本の企業のそこかしこで、おそらくは象徴的にそういう話が行われているんだろうなっていうのが身に刻んだっていうか、やっぱりそう思うんですよ。
 Googleというかアンディ・ルービンは来た訳ですよね。偉いなと。日本はやはり遠いですよ、シリコンバレーから遠いのにフライトに乗って、駆けつけた訳ですよね。実はその時Androidを作ったアンディ・ルービンって知らなかったんですよ。Googleで検索するんです。アンディ・ルービンってすごい人が来るらしい、ずいぶん偉い人が来るらしいぞと。とりあえずデモ頑張ろうぜって。でも、30分くらいで終わるんじゃないか、興味ないよって話で帰るんだと思っていたんですよ。それが来てみて、目を爛々と輝かせて、めちゃくちゃ面白いと。もっと見せてくれ、もっと話を聞かせてくれと、結局4時間半も居座ることになるんですよ。そして、君らは出資を求めてたって話だったよねと。一部出資なんかしてもしょうがないから、全部買うからって言う話を受けてですね、おぉ!みたいな話になるんですよ。
 そのスピード感の違いと言うのは、やっぱり参考になりますよ。世界のトップを走っている会社で、時価総額30兆円あります。そういう会社って何やってんのかって、現場の課長さんなんかに任せてないですよ。トップがそのままフライト行って、話しをして、面白ければその場で決断をして、後の些末な議論というかは現場に渡しちゃうんです。ただジャッジメント自体は自分の目で見てすぐ決めて終わらせる。このスピード感って言うのは、どうやったら追いつけるんだろう。4時間半でジャッジしたって話になったら、日本の企業で勝とうと思ったら3時間でジャッジしなければいけないみたいな話になってくるんですね。そうなったらほとんど差はないんで、そこまでできれば立派なもんですよ。それができる日本の会社は少ないんじゃないかなと感覚として思います。

 Googleのトップはラリーさんですよね。アンディ・ルービンにそれだけの裁量を持たせてるっていうのがすごいですよね。

 そうですよね。彼の発言権がGoogleの中で大きかったっていうのが、すごくあると思うんですよ。AndroidってGoogleの中核ですし、Googleを成長させた原動力なんで、彼の発言力の強さはあたと思います。ただしその彼に、意思決定をちゃんとさせるっていうところに彼の強さがあるだろうし、そこに一連の見切り発車というか、言ってみればめちゃくちゃですよ。ただそこにロマンがある。

 そういう意味ではアンディ・ルービンクラスの起業家そのものがなかなかいない。それを社内に抱え込んでいない企業に、いきなりそれを求めても難しいと思うんですよ。とは言っても、現場にそういう権限とか、そういう人をどう育てていくかっていうのが、まず第1ステップとして非常に大きい。Googleクラスの企業のやり取りとはまた別問題だと思って、その辺りって人材教育の話になっていくと思うんですけど、日本の企業がそこに向けて踏み出していくには、どういう教育というか、仕組みをとったらいいと思いますか。

 能力的にできないって訳じゃないと思うんですよね。ただ失敗する可能性がすぐ計算に入って、結果としてしないとか。それは自分だけで判断するとまずいということで、稟議書をまわすような感じで時間を取ってしまう。それがイメージ的に悪い。日本に行って何かするというと、時間かかる、めんどくさいということで。しかし、どこかで始めないといけない。1つか2つは失敗するのはしょうがないんですよ。賭けに100%当たるなんてのは見たこともないしありえない。それを小規模でも若いうちに会社で経験をするってことが大事だと思うんですね。いきなり課長になった時に、部長に権限をいただいたから、はいやれって言ってもなかなか難しい。ここら辺のセンスが必要だし、皆ができるって訳じゃなく、数の問題でもある。ベンチャーキャピタルでは10個に1個が成功すればいいって言うんですけど、そこまではしなくていいですけど、もう少し何割かは失敗するよ、という前提で仕組みを作るということで、若いうちに失敗を体験するってことが一番必要かなと。判断する能力は変わらないと思う。どこかで権限と失敗をどう吸収するかということです。

 リスクをとらせることを、ある意味強要させると。

 逆に大企業と話をしていて、ホスタルキャピタルという概念を設けるべきだと思うんですね。現金を持っていても上手く使いこなしてなかったら、キャピタルにコストをつけるという鞭があってもいいと思うんですよね。そのまま銀行に入れてたいして付かない利子を稼ぐんではなく、眠っている金も眠らせていたらペナルティっていうくらいにやっていくというくらいの鞭がないと。一番コンサバティブなリスクは現金のまま置いておく。大企業の色んな面でお金が流れないっていう、1つの原因だと思います。

 そういう意味ではベンチャーキャピタルって、本当に1割成功すればいい、3割はできれば成功したい、7割は失敗するという大前提ですよね。加藤さんはベンチャーの立場でさらに立ち上げていこうという中で、大企業と話をしていてどういう風にやっていったら、もっともっと付き合いやすくなるとかありますか。

 やっぱりベンチャーの考え方って創造性とか、アートって言っちゃうとちょっと微妙ですけど、近いところがあると思うんですよ。本当にいいものは誰が聞いてもいいものだっていう、暗黙の前提って持っていると思うんですよ。僕は違うと思っていて、ベンチャーだとか新しいものって止むに止まれぬ思いっていうか、こういうことやりたいんだ、これを自分の人生の中でなんとか成し遂げたいんだという。これって変な話、10人が10人、全員手を挙げるかといえばそうではなくて、もしかしたら1人しか手を挙げないかもしれないんですよ。そういうものなんですよベンチャーって。
 全員が手を挙げるようなのってそんなのベンチャーじゃないし、マーケットが見えないからやるっていうのはハイテクなんかでもあるじゃないですか。SCHAFTの入り口っていうのは、人型ロボットに対する並々ならぬ、中西社長の関心なんですよね。それがあれば自分は飯も食わなくてもいい、何もなくてもいい、寝なくてもいい。そういう思いってなんなんだろうと。
 僕の本の最後に、中西さんが僕に当ててくれた手紙があるんです。僕の文章なんかは読む必要ないから、本屋さんに行って、最後の文だけ見てみるといいんじゃないかって思うんです。それで中西さんの想いが伝わると想います。

 ただ、僕や回りの人間がそれに感化されて、ビジネスのナレッジだとか、ネットワークだとか、ファイナンスをつけていくプロセスなんですよね。最初の種を大切にしてあげないと。その種をどうやって育てていくか、そこにどうやって感化するかというところが非常に重要だと思います。
 僕もモデレーターじゃないんで、どうなるか分からないんですけど、中垣さんとかって日本の大企業とよく付き合ってるじゃないですか。僕の発想からして、外部から種だとか、思いだとか持っている人は社外取締役だとか、アドバイザーだとか、雰囲気が違ってくると思うんですよ。そういうのはとても重要だと。僕は外部から多様性を入れてくるっていう論者なんですよ。
 中垣さんが今やられているのって、プログラムとかで社内の人を育てたりするじゃないですか。そういうのは僕の専門分野ではないというか、僕は外から入れるべきだという激しい論者かもしれないですけど、中からはどうやったらいいんだろうとちょっと聞いてみたいんです。

 そういう意味では、僕自身が実はシリコンバレーで動いているメンバーに感化されて、もっと自分を変えたいっていうのがあって、今の環境を立ち上げたんですけど、その世界で生きてきた人たちと触れることで、自分自身の中でイメージが膨らんできたり、人ができないことをやってみようとか、自分自身が続けながらやっていける、それがひとつのきっかけとしてシリコンバレーだというのは事実なんですけど。

 この中でシリコンバレーに行ったことがある人って何人ぐらいいらっしゃいますか。手を挙げてください。結構いるんだなぁ。半分くらいいらっしゃると思うんですけど、やはり行けば変わります?
 それを声を大にしていう必要はないかもしれないけど、行けば変わります?
 とっても不思議ですよね。あの空気感っていうのは。空気感っていうのはこういうものなんだって一発でわかる。そういうプログラムって言うのもすごく大事だと思うし、僕自身もはじめて、何年前になるかな、7年前とかシリコンバレーに行った時に、人生が変わりました。僕の本って結局シリコンバレーに住んでない奴が書いたシリコンバレーの本みたいな話になってくるわけですよ。

 斉藤さんは物理的に離れるってことの重要性って、新規事業を考えた時に大切なんじゃないかなって言うのをおっしゃってたのがすごく印象的だったんですけど、大企業が新規事業を考える時に物理的に離れたほうがいいって言うお話を、ぜひ皆さんにもお聞かせいただきたい。

 この中に何社か、大企業を代表する人もいると思うんですけど、私も何年間もイノベーションを研究していて、アントレプレナー的にどう大企業が生まれ変わるかっていうのが、よくある課題なんですね。ただ見てますと、イノベーションっていうのは、ある程度の規模になると、人事制度とかでひっかかって、イノベーションがちゃんとクリーンに背伸びできないっていうのが、日本だけじゃなくアメリカとか他の国でもよくあるパターンですね。
 大企業が本当にオープンイノベーションをして、社内ベンチャーとかが成功するモデルっていうのを私は見たことがないです。これはいろんな理由があって、今日の70分のパネルディスカッション中ではなかなかお話ができないんですけど。社内ベンチャーで成功したモデルの1つは、IBMPCが生まれた経緯ですね。70年代、IBMがメインフレームとかでかい機械を作っていた時代にAppleとかそういう会社が生まれてくる中で、IBMがパソコン事業をやるべきじゃないと言われて、そんなおもちゃは作れないからと、ダメだしをされていたのが、保険を掛けるべきだと言って舞台を特別に作って、本体から結構遠い場所に作って、ある意味特命部隊なんですね。IBMPCっていうのはぜんぜん違う場所で作って、ご存知のように世界に広がりました。日本の場合、似たような話で、トヨタがプリウスを発明する時も、同じです。プリウスは当初トヨタ社内でも結構否定的だったんですけど、結局このままではイノベーションが進まないからということで、プリウスの部隊も少人数で本隊から切り出して作ったっていうので、イノベーションを生むっていうのは大企業ではやり方を多少工夫しないといけないっていうのがあると思います。

 日々の商品に対して、ノルマを持ってったり、仕事をしている人の隣で、ある意味今のプリウスの話って、ガソリンと車を破壊する話なんで、隣だと非常にやり方が難しいしですよね。

 それだけじゃなくて、普通の人事制度・人事評価につけてしまうと、社内で何であの人は仕事しないのかという風に見える。

 やらなきゃいけないっていうのが往々にしてありそうですね。非常にそういうことがあるのでしょう。加藤さん自身が今度また、新しいベンチャーを立ち上げるって話もあったんですけど。

 そうなんです。中垣さんにちょうど相談に行って、チームができあがって、結構長い間話はしていますけれども、その切り出しができそうだなと。僕は大学発ベンチャーが好きなんですけど、技術的に深くて、ディープな技術があって、それに対して僕みたいなエキスパーティーズがどうやって活きるかっていう、それを掛け合わせると面白いよねっていう。そんなもんですよ。SCHAFTを始めたのだって、最初からマーケットだ何だっていう、あんまりそうやって言い過ぎると立ち上がらない。でもやっぱり想いってそういうものだと思うので、技術ですよね。コアな技術があって、初めてそこに対してマーケットを当てていく。入り口からマーケットなんてわからないですからね。わからないからとりあえず行って、トライアンドエラーするしかないんで。とりあえずジュース1本買ってきます、みたいなそんな話だと思うんですよ。

 ただ、そんなに軽いんじゃなくて、そこに僕も人生をかけているし、人生をかけてジュース1本買ってくるのに、どんなジュースを選びますか。それなりにジャッジメントはあるはずだし。日本にいても仕方ないからっていうのではなく、あの空気の中でやってみたいっていうのはあります。

 ぜひ伝えたいのが、さっきから物理的に離すとか、教育制度を変えるとか、リスクをとることに対して指揮を取るとか興味を持つ、すごい大切だと思うんですけど、例えば新事業をやる時に一人でも人事があるので、どんな人をまっさらにさせる、もちろん成功率ってそんなに高くはないと思うんですけど、向いてる人と向いてない人っている気がするんですけど、どういう人ならいいかみたいなのって何かお考えがありますか。

 私はまだ人事部とかはわからないことがいっぱいありますね。年功序列でやるっていうのがそもそも…。ノーコメントにしておきます。
 私は、結構厳しいことを講演や記事で書きますが、よく言われるのは、じゃあ、斉藤さんなんで日本にいるのと。私が日本にいるのは恩返しの意味もあるんですけど、すごいポテンシャルを感じるんです。
 最近確認できるのは、いろんな企業に入って、アドバイスとか小さいことをやって感じるのが、結果、新入社員とか、新入社員という言葉もおかしいですけどそれは置いといて、人が入ってくるということに対して、私はとてもびっくりして、日本はやはり素敵だな、いいなぁと思うのは、インセンティブのかけ方によってパフォーマンスがぜんぜん違う。実は黒船じゃなくて、もともと日本にあったものをどう取り戻すかっていうのを私は言っているつもりなんですね。日本の場合はスキルがあって、仕事をちゃんとやりたいんですよ。インセンティブを少し変えるだけで、私は1年間でいろんな会社を回っていて、5%から20%良くなったとか、50%から100%パフォーマンスが上がっているというところがある訳です。それは見ていて、日本人はやっぱりできるんだと。それはインセンティブのつけ方、問題のある人こそインセンティブをつけて、能力を引き出すっていうのは、日本のいいところだと想います。皆インセンティブがちゃんとあれば仕事をするっていうのがあって、日本で仕事をするのは大好きです。

 新しいことをやれというのではなくて、イノベーションって、思い出せばできることはいくらでもあるんじゃないですかね。

 アントレプレナーシップという言葉、今日のスライドには出ていないんですけれども、残念なことにこれも定義の問題があって、日本の場合はアントレプレナーシップを辞書で引くと、起業家精神とか、ベンチャーという定義なんですね。
 実はそれは違うんです。アントレプレナーシップというのはもともとフランス語で、チェンジメーカー、アイディアを実行する人なんですね。私は変な話、いろんな課題、役員会とかで参加している中、日本の議論を見ていると、皆問題を読まないんですよ。その解決力をもって何を直さないといけないか、何をしないといけないかっていうのを、皆わかっているんですよね。結局、実行力なんですよね。アイディアを実行する、実現する力なんです。アントレプレナーシップというのは、日本で一番大事な課題じゃないかなと思うんです。アントレプレナーってベンチャーだけじゃなく、大企業も大学も永田町も霞ヶ関も使える機能、もちろんベンチャーを立ち上げるのにも便利な機能なんですけども。
 アイディアをどうものにするかというのは、何をやればいいのかはわからないですよ。ただ失敗を恐れず、乗り越えてやっていくということが一番の課題かなと。そう考えると、他の国と比べると日本は優位な立場ですよ。やることは皆わかってるから、やればいいだけの話なので。他の国だと課題もよくわかってない、何をするべきかもわからないという段階なので。日本はもう全部わかっている、ただやってないというだけ。

 だいぶ時間もたってきたので、そろそろまとめさせていただくと、まずこういう方々が日本にいるということが重要だと思っていて、MicrosoftやGoogleがやっていることっていうのは、遠い国の話ではない。実は身近でも起こりうる。まず今日は皆さんにぜひ覚えていていただきたいというのと、あとはオープンイノベーションは忘れているだけで、本来はできるということだと。リスクテインキングの考え方なんですけどね。日本人がもともと持っていたものが、この20年間自信を失ってしまっている。それをぜひ取り戻そうじゃないかと。
 あと、最後の言葉が非常に印象に残ったんですけれども、アントレプレナーシップはチェンジメーカー。あらゆる組織の中で、まさにチェンジメーカーをどう育てていけるかということが、大企業とっても、どんな組織にとっても競争力を増していくためには重要だということですよね。

 残り5分くらいあるので、せっかくの機会なので質問を受付けられればと思っています。質問のある方、ぜひお願いします。

 非常に貴重な話をありがとうございました。加藤さんにお聞きしたいんですけれども、もともと出資を募ろうと思って、たくさんコンタクトをした中で現れた出資候補者であるGoogle社に、なぜすべての株式を売るという決断をされたのかということと、それが正しい決断であったと思うかを聞かせてください。

 なぜ100%売ったのかということは、明確な答えはひとつあります。それは時間です。僕が一番最初に中西さんと浦田さんと一緒に始めて、僕が支援するといったときに、あぁこれはやっぱり時間がかかるな、ミニマムでも10年だなと。そういう意味でベンチャーキャピタルのターンにあうのかなという感じはちょっとありました。そういう悩みを持ちながら、それをどういう風に早めることができるか、どういう風にすればそれを超えることができるかということを考えてきた何年間だと思うんです。それに対して、Googleは答えを出せたんだと思うんですよ。
 話のひとつとして、彼らがどれくらいの規模で何をやろうとしているのか、ブランドプランというのか、そういったもののなかで僕らのベンチャーが埋め込むことで、さっき斉藤さんから話がありましたが、自分のベンチャーを自分で育てるっていうのはコントラビリティっていう観点からしてもすごい楽しいですよ。だからやっているんだという感覚もあります。ただ、自分でやっているからこそ伸び悩むとか、実は本当に世の中をチェンジメイキングできるのにできなくなっちゃう、だから大きな会社の中で大きな夢を引き継ぐっていうのがあるんだと思うんです。日本の会社をいくつか回っていく中で、なかなか苦しかったんですよね。そういった中ではGoogleのもつ規模、自由度、エンジニアを大切にする風土、この中に埋め込めば、きっとこの技術者たちは幸せになるだろうなと。イグジットありきじゃないんですよ。僕にとっては、やっぱりもともと夢みたいなところから始まっているので、中西さんと浦田さんという人たちが、一生、ロボットに対して全身全霊をつくして、かつ、危険で過酷な作業が代替されればいい世の中になるに違いない、そこに対する確信ですよね。それをGoogleという土壌はもたらしてくれるんだろうなという感覚がありました。

 今日は貴重なお話をありがとうございました。インセンティブのお話について斉藤さんからお話がありましたので、もう少し具体的に。どのような評価制度あるいはインセンティブの与え方がイノベーションを進める上で、一番有効かというのを事例を踏まえて教えていただきたい。

 責任の権限というのがもちろん必要。これはひとつの課題ですけど。インセンティブというのは自分がいいことをすれば、それに対して対価がもらえるというなかで、恩返しという言葉があんまり広がってないという気がするんですよね。会社のためというのもあるんですけど。皆さん終身雇用で会社のためにやっていくというのがわかるんですけど、人間として自分を満足するとか、会社が稼いだからその一部をもらうのはフェア、というのが世界では普通ですから。そんな風にハッキリとは皆さん言いませんが、ただインセンティブをして人を動かすということでは、心理学的には何かをやったら対価が来るということがあるので、それを正直に巻き込むということなんですね。制度とか理念とかあると思うけれども、結局、年功序列とかそういうのではなく、人のパフォーマンスアビリティをちゃんと評価して、それに対してそれなりの対価を与えるということがあってもいいとおもうんです。

 日々のオペレーションに対する評価というのは、人事制度をベースにしっかりあるんですけど、いかんせんイノベーション、新しいことにチャレンジするということに対しては違うインセンティブが必要だと思うんですね。その与え方が金銭的なものなのか、非金銭的なものなのか。いろんな形があると思うんですけど、そのあたりはいかがでしょう。

 その多様性というのは人事とか人事権とか人事部とかと思ってしまうけれども、意外と違う部署とか、全然関係ないところから、理系が文系の方からアイディアをもらう、文系が理系からもらうというのが全然あるのに、それを聞いて反映するという満足感だけでは、仕事は全然ダメだと思う。インセンティブとは必ず金銭的ではないと思います。自分がコントリビューションしているというところが人間として大事だと思います。

 まだまだ話は尽きないと思いますが、ちょうど時間が来てしまいました。皆さんからお二人に大きな拍手をお願いします。ありがとうございました。

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